ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

青山美智子「月曜日の抹茶カフェ」(宝島社)

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『木曜日にはココアを』の姉妹編みたいな作品。微妙に登場人物もリンクしています。

前の作品に登場した脇役が、次の作品では主役として登場する、リレー小説形式が

今回も採用されており、少しづつ物語とキャラクターはリンクして行きます。誰

かにとっての脇役も、みんなそれぞれが主役として自分の人生を生きている。派手な

物語があるわけではないけれど、それぞれに少しづつちょっとした心境の変化が

起きる出来事があって、前向きに明日に向かって生きて行こうと思える終わり方

になっているところが良かったですね。一篇がとても短いので、あっという間に

読めちゃう分、前作同様多少の食い足りなさ感は否めないけれども、心がほっと

癒やされる優しい読み心地はやっぱり好きですね。

スタートは、マーブル・カフェの定休日(月曜日)に、一日限定で開くことになった

抹茶カフェを、たまたま訪れることになった携帯ショップ店員のお話。その日は

一日ツイていないことの連続で、せっかく訪れた大好きなマーブル・カフェも

定休日。とことんどん底に落ちていた彼女が出会ったのは、一日だけテストで

開くことになった抹茶カフェの店主。老舗茶問屋の若旦那だという店主の無愛想

な態度に初めは憤るが、話して行くうちに印象が変わって行き――というお話。

この冒頭に出て来た若旦那店主がラスト一篇の主役になることで、彼が突然

やって来た、ツイてない携帯ショップ店員の彼女のことをどう思っていたのか

わかって、最後キュンキュンしちゃいました。この流れも、前作とほぼ同じですね。

まぁ、ワンパターンといえば、ワンパターンではありますけれど、こういう展開は

個人的にはかなりツボにハマる方なので(笑)。

他には、妻と喧嘩してしまい途方に暮れる夫、個人でランジェリーショップを営む

女性デザイナー兼店主、婚約者との結婚を直前で辞めた女性シンガー、自分を

育ててくれた祖母との折り合いが悪い女性紙芝居師、京都の老舗和菓子屋の元女将、

左右の目の色が違うオッドアイの猫、脱サラした京都の古本屋店主、一目惚れした

彼女に振られたばかりの大学生、シドニー出身の青年アーティスト、両親が共働き

で、二人が雇った女性に面倒見てもらっている男子小学生、そして老舗茶問屋の

東京支店店主と、老若男女個性豊かな登場人物がそれぞれに悩みを抱え、誰かが

誰かの肩を押したり、支えになっている。シドニー出身のオーストラリア人の

青年にマスターが語った言葉が、この作品を象徴しているように思いました。

『(中略)さかのぼっていくと、繋がっている手がどこまでも無数に増えていくんだ。

どの手がひとつでも離れていたら、ここにはたどりつけなかった。どんな出会いも、

顔もわからない人たちが脈々と繋いできた手と手の先なんだよ』

誰かの手が、誰かを繋いで、どこまでも続いて行く。人間関係って、まさにそれ

だよな、と思いました。今、自分がいるこの場所も、いろんな人との出会いと

繋がりがあった結果なんだと思う。今の自分の立ち位置に感謝したいと思えることが、

幸せの証拠なのかな、と思う。素敵な言葉だな、と思いました。

マーブル・カフェのマスターは、相変わらず神出鬼没で、得体が知れないけれど、

不思議な魅力のある人物だなぁと思わされました。雇われ店長もちょこっと登場

したのが嬉しかったですね。

途中、出て来た神社と宮司さんは『猫のお告げ~』に出て来たのと一緒なのかな?

ミクジは登場しなかったけれど(別の猫は主役として登場しましたがw)。

個人的には、孫に対してツンデレの京都の老舗和菓子屋さんの元女将さんのお話が

好きだったかな。おばあちゃんは、どんな時でも孫のことが心配で仕方がない

ものなんだよね。

ほんわか、心温まる作品でした。