ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

坂井希久子「たそがれ大食堂」(双葉社)

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デパートの最上階にある、存続危機に瀕した大食堂の立て直しに奮闘する従業員

たちを描いたお仕事小説。

最近お気に入りの作家になりつつある坂井さんの新刊。老舗デパートの再建もの

というと、テーマ的にはそんなに目新しさはないですが(村山早紀さんの『百貨の

魔法』とか)、こういう事業再建ものは好きなジャンルなので、楽しく読めました。

主人公は、ちょっとした不祥事を起こして外商部から大食堂のマネージャーに異動

させられたシングルマザーの美由紀。慣れない仕事に戸惑いながらも一人娘の為に

頑張ろうと思った矢先、デパートのボンクラ若社長が、どこぞのビストロから

新料理長を引き抜いて来たと言われ面食らう。フランスでも修行したことがあると

いう新料理長の智子は、確かな腕を持っているものの、性格に難があり、一方的に

料理の味を変えようと提案して、副料理長の中園と険悪ムードになってしまう。

しかし、智子が作ったオムライスを食べた美由紀は、その美味しさに感動する。

ヤンキ―上がりの中園も、その味にはひれ伏すしかないようで、しぶしぶと智子

のオムライス特訓を受けることに――。

古き良き時代の大食堂のメニューが、一作ごとに美味しくリニューアルして行く様子

にワクワクしながら読みました。出て来るメニューはオーソドックスな洋食ばかり

だけれど、どれもが懐かしく、久しぶりに食べてみたくなるものばかりでした。

いやー、読んでる間、お腹空いちゃって仕方なかったな。また、お料理描写が

とってもリアルで美味しそうなんだもの。映像が頭に浮かんでしまって。もー、

オムライスもプリンもナポリタンも、めっちゃ食べたくなりましたよ!オムライス

は私もたまーに作るけど、包む系はうまく行った試しがなく、トライしても失敗

して、結局上に乗せるだけになってしまいます。あの、金色のラグビーボール

みたいにきれいなオムライスが作れたら・・・と、どれだけ思ったことか。だいたい

卵破れて悲惨なことになるからなぁ。智子のような技術が欲しい・・・。

ナポリタンはほとんど作ったことないけど、パスタを茹でて一日寝かせて作るとは

知らなかったです。手間暇かかっているんだなぁ。なんか、一番簡単なパスタ料理

くらいに思っていたかも。きちんとした手順を踏んだナポリタンは、全然違う

美味しさがあるんでしょうね。

気泡の『す』が入った硬めのプリン、私も子供の頃から大好きです。一時期

流行ったなめらかプリンも好きなんだけど、昔ながらのプリンアラモードに入って

いるみたいな、デパートとか喫茶店の硬めのプリンが無性に食べたくなる時が

あります。最近は、原点回帰とばかりに、そういう硬めのプリンを出すお店も

増えて来たと聞いたこともありますが(でも、あんまり出会ったことはない)。

虹色のクリームソーダは、確かにインスタ映えしそうだなぁ、今風だなぁと

思いましたね。今は、とにかく『映える』ことが大事ですからねぇ。でも、私は

昔ながらの緑のクリームソーダがやっぱり一番な気もしますが(味云々ではなく、

気持ちの問題ね)。でも、なんであれ、緑色なんですかね。

デパートの上階のレストランは、今でもたまに利用します。デパートで買い物する

ことってあんまりないんだけど、いろんなジャンルのお店が入っていて選択肢が

いろいろあるし、便利ですよね。本書に出て来たような大食堂が入ってるデパート

は、今ではもう数少なくなっていそうですけど。子供の頃は、そういう場所で

ご飯が食べられるのが特別な感じがして嬉しかったなぁ。そういう時のわくわく

した感じを思い出して、とても懐かしかったです。

主人公の美由紀を始め、気が強くてぶっきらぼうだけど料理の腕は確かな智子や、

愛らしいだけの受付嬢かと思いきや、芯のしっかりしたプリン好きのカンナ、

ヤンキー上がりだけど純情で意外と素直な副料理長の中園、顔は強面だけど実は

小心者の和食部門チーフ八反田など、個性豊かな登場人物たちのキャラもみんな

良かったです。それぞれがそれぞれの仕事に誇りを持っていて、食堂を良くしようと

思っているのが伝わって来ましたし。パートの主婦たちも加わって、終盤はみんな

で一致団結してボンクラ若社長をやり込めるところにはスカッとしました。智子が

最後にどういう結論を出すのか、最後の最後までハラハラさせられましたが、最後

は気持ちよく読み終えられて良かったです。美由紀、智子、カンナと美由紀の娘、

美月と女四人で最後に食卓を囲むシーンが好きでした。今後、こういう回が増えて

行きそうですね。なんだか楽しそうでいいなぁと思いました。

それにしても、美月は良い子でしたねぇ。七夕の短冊に何を書いたのかすごく気に

なってたんですけど、最後にそれが明かされて、彼女の母親への想いにジーンと

してしまいました。ええ子や~。きっと、美由紀の育て方がいいんでしょう。

別れた旦那がくそ野郎な分、反面教師だった可能性もありますがね(苦笑)。

楽しく、美味しく読み終えられました。面白かったです。