ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

青柳碧人「むかしむかしあるところにやっぱり死体がありました。」(双葉社)

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童話シリーズ第三弾。日本昔ばなしシリーズとしては第二弾になりますね(前作は

西洋版だったので)。こういう形で、西洋版と交互に続いて行くのかしらん。

今回は、竹取物語・おむすびころりん・わらしべ長者・さるかに合戦・ぶんぶく茶釜

の五つの昔話を本格ミステリー仕立てにしています。相変わらずどれも黒いですねぇ。

元ネタはバラバラの日本昔ばなしですが、本書では少しづつリンクして行く連作

形式になっています。収録順に読んだ方が絶対良いと思いますね。今回も、元ネタの

小道具をしっかりミステリーの伏線に落とし込んでいるところはお見事だと

思います。第一話の竹取物語では、それぞれの求婚者が、かぐや姫の為に手に入れた

貢物の特殊な性質を上手く殺人事件に絡ませながら物語が進んで行きますし、第三話

わらしべ長者では、藁にくくりつけた虻から始まる物々交換の品々の中のひとつ

である美しい布が、三回殺された男の謎に関わっていたり。幼い頃に読んでいて

慣れ親しんだ昔ばなしが、こんな風に蘇るのはとても興味深い。懐かしさもあるし、

解釈の新しさには目を瞠るものがあると思う。まぁ、多少強引なところもあります

けれど。ファンタジックな設定を、上手くミステリに絡ませているところが上手い

なぁと感心しちゃいます。考えてみると、昔話って、かなりファンタジー要素が

強いとも云える訳ですね。子供の頃は、あまり不思議に思わず読んでいたけれど。

ミステリの手法としてもループものや多重殺人もの、交換殺人ものとラインナップ

豊か。読者を飽きさせないよう、いろんなタイプのミステリ手法を惜しげもなく

採用しているのがいいですね。正直、何度も同じ場面がループする、おむすびころりん

の話は、若干途中でくどく感じ始めてしまったけれど(なにせ、七回も繰り返し

があるのだから・・・って、これは西澤さんの『七回死んだ男』のループ部分の

オマージュ作品とも云えるのかな?)。

最後の二作(さるかにが合戦とぶんぶく茶釜の話)は、終盤の反転が見事に決まって

いて、読み応えもありました。全体的に、各作品のリンクに少々混乱したところは

ありましたが・・・(もう一度、整理しながら読みたい気分)。細かい伏線が

きちんと最後に効いてくる辺りは、ほんとにお見事だと思いましたね。

途中から、この作品の『語り手』は一体誰なのか、という問題にも引っかかりを

覚え始めました。誰かにいろんな昔話を語っているという体裁なので、誰が誰に

語っているのか。その答えは、ラスト一話で明かされるのですが。細かいところまで

よく考えられて構成されていて、さすがだなぁと思わされました。途中細切れに

読んだりしていたので、きちんと全部を把握出来ずに終わってしまったような気

がして残念でもあるのですが^^;どっかのサイトでネタバレ解説とかしてくれて

ないかなぁ(他力本願・・・^^;)。

まだまだ昔話ネタは尽きないと思うので、更なる続編が出ることを心待ちにしたいと

思います。