シリーズ第三弾。前作で心配されたお父さんの体調ですが、本書ではその片鱗も
なく、元気そうでほっとしました。けれども、コロナ禍の波がこのシリーズにも
やって来て、主人公の美希もなかなか実家に帰れなくなってしまいます。娘に会え
なくなり、お父さんも寂しそうです。美希の疑問に対するお父さんの謎解きも、
リモートでやり取りする場面が出て来たり。でも、そうやって画面越しに動画で
やり取りできるんだから、今の世の中は便利だなぁと思わされましたね。これが
一昔前の出来事だったら、電話しか手段がなかった訳ですから。声だけではやっぱり
寂しいものがありますよね。
後半の作品では少しづつ実家の方にも顔を出せるようになって行きますが、家の
中でもマスクをして、食事はしないで少しの滞在時間だけで済ませたり。都心で
働く美希が、両親に対して最大限の配慮をしながら生活していることが伺えました。
お父さんの謎解きに関しては、今回もその知識の広さにただただ脱帽するばかり
でした。その謎のジャンルも多岐に亘るというのに。大岡昇平、古今亭志ん生と
古今亭志ん朝、小津安二郎、瀬戸川猛資、菊池寛・・・私には馴染みのない人物
ばかりで、出て来た知識はただ右から左へと読み流すのみではありましたが。
自分にその知識の端緒でもあれば、もっと美希やお父さんの感心や感動に共感
出来るのかもしれませんが。まぁ、このシリーズは美希とお父さんの阿吽の呼吸で
交わされる会話文だけでも十分楽しめるのですけれどね。美希の方はどちらかと
いうと知識不足でお父さんから指南を受ける役割を担っているので(とはいえ
出版社に勤める編集者なのだから、文学の知識は相当なものであり、私なんぞ
とは比較になりませんが)、まだ共感しやすいですけどね。
美希がおせち料理を上手に作る場面があって、失礼ながら意外と家庭的なところも
あるんだなぁと驚かされました。おせちってかなり料理のスキルが高くないと
作れないと思うんだけど。スポーツ女子だし、料理とか上手なイメージが全然
なかったので(←失礼)。いつでもお嫁に行けそうです(セクハラ?)。しかし、
前作で恋の行方が気になったあの男性とは、全く進展なかったですね。というか、
明らかに相手は美希に気がありそうな素振りを見せているのに、当の本人は全く
その気がないようで。なんだか、気の毒になってしまった。いろいろ頑張って
アピールしてたのに・・・。というか、むしろ美希は彼のことをライバルとしか
見てないですもんね・・・哀れ。この気持がこの先ちょっとづつでも変化して行くと
良いのですけれど。こればっかりは、美希次第でしょうね^^;
今回、落語の話が二作。落語ミステリの金字塔と云っても過言じゃない円紫師匠と
私シリーズの作者としては、面目躍如といったところでしょうか。
お父さんの知識というか、北村さんの知識の広さは、毎度ながら本当に驚嘆する
ばかりです。
どうしてそんなに本の知識があるのか。北村さんの家の本棚を一度でいいから
覗いてみたいものです。
今回も、中野のお父さんの快刀乱麻な謎解きが読めて、スカッとしました。
末永く続けて頂きたいシリーズですね。