ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

青山美智子「赤と青とエスキース」(PHP研究所)

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青山さん話題の最新作。オーストラリアのメルボルンに留学した日本人女性が、

そこで出会った青年から、友人の画家の絵のモデルになってほしいと頼まれる

ところから物語が始まります。そこで青年の友人が描いたのは、絵を描く前の下絵、

いわゆる、エスキース。この何気なく描かれた絵が、その後様々な人々の人生を

変えて行く――。

一枚の絵が紡ぐ、人と人との絆と愛の物語です。

第一章は、日本人留学生のレイと、彼女が心を寄せる現地に住む日系人男性の

ブー、二人の恋愛の行方を描いたもの。

第二章は、美大生時代に出会った一枚の絵がきっかけで、額縁制作に興味を持ち、

額縁工房に就職した30歳の空知が、そのきっかけとなった画家の絵と再会

し、額装を手掛けることになる話。

第三章は、中堅漫画家のタカシマ剣の、元アシスタントだった砂川が大きな漫画賞

を獲り、一躍大人気漫画家になった。メディアに出たがらない砂川が、タカシマ

との対談なら受けると言う。とある喫茶店の一枚の絵の前で行われた二人の対談

の様子を描いた作品。

第四章は、50歳で転職し、輸入雑貨店に勤めている茜は、オーナーからイギリスに

買い付けに行ってみないかと持ちかけられる。二つ返事でOKした茜だったが、行く

には元彼の蒼の部屋に置いて来たパスポートを取りに行かなければならない。意を

決して蒼のスマホに電話をかけると、彼は部屋まで取りに来て欲しいと言う――。

エピローグは、四章の二人の補足的な作品。なるほど、なるほど、そういうこと

だったのか、といろんなことが腑に落ちました。第一章に出て来た二人のその後も

とても気になっていたので、四章ではっとさせられ、エピローグですべてのことが

明かされ、すっきりしました。

一枚の絵が、いろんな場所を巡って、巡って、帰り着くべき場所に帰り着いた、

という感じ。美しい額装で着飾って、あるべき場所へと。随分、遠回りしたような

感じもありますが、その分、たくさんの人の想いも重なって、絵の深みも増したのでは

ないでしょうか。

四章で、三章に出て来た冴えない中堅マンガ家のタカシマのその後の活躍が知れた

のも嬉しかったですね。三章ラストの、感情表現が苦手な砂川と、彼の成長を素直に

喜べるようになったタカシマとの本音の会話も良かったな。

ちょっとづつ人物と縁が繋がって行く、青山さんらしい構成も良かったです。

レイとブーの呼び名には、ちょっと苦しいものを感じなくもなかったけど。ネイティブ

な発音だと納得出来るものなのかな?しかし、あだ名がブーって、ちょっと嫌じゃ

ないのかな~。日本に住んでる訳じゃないから気にならないのか。

絵を観るのは大好きだけど、額縁ってよっぽど個性的なものじゃないと注目して

観ることがないので、その絵にあった額縁とか、あんまり考えたことがなかったです。

あんまり額縁ばっかり目立ってると絵の存在感が薄れてしまったりもするだろうし。

その絵にそっと寄り添うような額縁っていうのが大事なんでしょうね。二章の額縁

工房に勤める青年の話を読んで、今度絵を観に行く時はもっと額縁に注目してみよう

と思いました。

一作通して順番に読むべき作品ですね。主人公はそれぞれ違っても、きちんと一枚の

絵で繋がっているし、最後まで読めば、これはタイトルになっている赤と青の二人の

物語なのだとわかる。構成が非常に上手いな、と唸らされました。

途中辛かったり悲しかったりする場面も出て来るけれど、最後にはほわっと優しい

気持ちになれました。青山さんの作品、やっぱりいいな。