ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

町田その子「星を掬う」(中央公論新社)

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町田さん新作。本屋大賞受賞後一作目だそうで。『52ヘルツ~』と同じくらいか、

それ以上に重苦しい内容でした。子供の頃、母親に捨てられて以降、悲惨な人生を

送って来た千鶴は、パン工場の夜勤業務でカツカツの生活を送る日々だった。ある日、

毎週聞いているラジオ番組の企画に、賞金欲しさに母親と過ごしたひと夏の思い出を

投稿すると、見事に当選してしまう。すると、その放送を聞いて、ラジオ番組を

通して連絡して来たのは、生き別れた母と長く同居している、芹沢恵真という若い

女性だった。恵真と会う約束の当日、千鶴は別れた夫からDVを受けた顔を隠しながら

待ち合わせ場所に赴いた。その顔を見た恵真は、千鶴の現況を把握し、自分たちの

所に避難して来るように提案するのだが――。

とにかく重い話でしたね。主人公の千鶴の周りにいる人間が、クズばっかりで

辟易しました。特に、元夫の言動は酷すぎて・・・でも、世の中のDV男って、みんな

こんな感じなんだろうな。女性に対して、こんな言動が出来るって時点で、人として

終わってると思うけど。離婚していようが、千鶴のことを自分の所有物としか

思っていないところにゾッとしました。どうしたら、こういう思考になるんでしょう。

でも、本当にギリギリのタイミングで、奇跡のようなタイミングで、母親と再会

出来て良かったと思います。いや、タイミングとしては、いいとは言えなかったの

かもしれないけれど。できれば、もっと早い段階で再会出来ていたら、二人の

親子関係は、もっと違ったものが築けたのかもしれない。だって、千鶴が再会した

母親は、若年性認知症を患ってしまっていたから。幼い頃の母親とは全く違った

性格になっている上、再会した千鶴に厳しい言葉を投げかける。それでなくても、

心にも身体にも酷い傷を負っている千鶴に追い打ちをかけるような出来事の連続で、

読むのがキツかったです。理由あって母親や恵真と同居するケアマネージャーの

仕事をしている彩子も、自分の娘が転がり込んで来てからは、人が変わったように

娘第一の言動に変わってしまって辟易しましたし。この娘の言動も酷すぎて、

ドン引きだったな。クソ男に引っかかって妊娠させられて、挙げ句逃げられて。

全部自分のせいなのに、全部母親のせいにして。お世話になっている人への

感謝の気持ちも一切なかったし。みんながみんな、それぞれに自分勝手で、自分の

境遇を誰かのせいにしているところに腹が立って、読んでいてイライラムカムカ

しっぱなしでした。でも、後半以降は少しづつそれぞれの人物の本心が明らかに

されていって、印象が変わって行ったのですけれど。彩子の娘も、最終的には

素直な良い子なのがわかってほっとしましたね。それまでの言動は許せるものでは

ないですが。

心が抉られるような嫌な描写が続く展開に、途中心が折れそうにもなりましたが、

ぐいぐい読まされて読む手を止めることが出来なかったです。読ませる力はやはり

すごい作家さんだなぁと思いますね。

 

以下、ラストに触れています。未読の方はご注意を。

 

 

 

 

ただ、残念だったのは、話の展開がほとんど途中から読めてしまったこと。DV男

は絶対このままじゃいないだろうという畏れは最初から抱いていて、彩子の

娘がSNSをやっていて、恵真たちの写真を撮った時点で次の展開は明らかだったし、

そこから最後、千鶴の母親が彼女たちを庇うシーンまで含めて、ほとんど予想

通りに物語が進んで行ったので・・・できれば、もう少し、予想を超える場面

があると良かったかな、とは思いました。

でも、千鶴がDV男に立ち向かった場面は、胸がすくような気持ちになれました。

そして、ラストの病院での母親とのシーンにも、とても心を打たれました。タイトルの

意味も、すとんと腑に落ちました。認知症の母親が掬う記憶の星たち。きっと

それは、美しく明るく輝くものに違いない。悲しいけれど、とても美しい

ラストだと思いました。二人に残された時間はそんなに多くないのかもしれない

けれど、できるだけたくさんの二人の記憶が母親の中から掬えるといいなと思う。

恵真だけは、最初から最後まですごくいい子で、彼女も心に深く傷を負っている

からこそ、千鶴に寄り添えるのかなと思えました。もちろん、聖子の存在が

あるからこそ、というのが一番大きいとは思うけれども。これからも、お互いに

いい関係でいて欲しいな。