ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

古内一絵「二十一時の渋谷で キネマトグラフィカ」(東京創元社)

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マカン・マランシリーズの古内さんの新刊。買収が決まった老舗の映画会社に

勤める人々が、DVD宣伝部が仕掛けた最後の企画を成功させるべく奔走する姿を

描くお仕事小説。

読み終わってネット検索して初めて知ったのですが、これ、続編だったようでして。

ただ、前作は本書より30年前のお話らしいので、あまり問題はなかったのですが。

シリーズものは順番に読みたい派なので、ちょっとガッカリ。本書でもちらほらと

出て来た六人の同期を持つ『平成元年組』のメンバーたちの若かりし頃の活躍を

描いているようです。

本書では会社として末期状態を迎えている銀都活劇(略して銀活)ですが、おそらく

30年前は映画全盛期で、今とは全く違った活気があったでしょうから、本書

とは全然雰囲気が違うのかもしれません。本書では、IT企業に吸収されることが

決まって、社員たちは働くモチベーションが保てず、殺伐とした空気感が

漂っていますから。そんな中、DVD宣伝部を率いる江見が立ち上げた、90年代の

映画をブルーレイ&DVDで復活させるトリビュート企画を巡って、様々な人々の

思惑が錯綜することに――。

単館映画が流行った時代、ありましたよねぇ。私も、若い頃は渋谷のちっちゃい

映画館とか観に行ったことあるなぁ、と懐かしく思い返しました。その頃の映画

の方が、良作が多かったような感じもするし。もちろん、今だって良い映画は

たくさん作られているのだろうとは思いますけど。

一話ごとに主人公が変わって行く連作形式になっています。一話目の主人公、

江見が立ち上げた90年代トリビュート企画が、一話ごとにいろんな人を巻き込んで

大きくなって行く過程にはワクワクしました。正直、好感持てない人物の話も

あって、そこはイライラムカムカしたりもしたのですけれど(特に、六話目の

由紀子。二話目の葉山にもムカついたけど、最終的には企画にOK出してくれた

から、由紀子よりはまし)。

個人的には、黒マスク男の前村(譲)君のキャラが好きでした。一見何考えてるか

わからなくて飄々としているのに、実は仕事が出来て、頼まれるとちゃんとやって

くれる真面目なところとか。基本的に、DVD宣伝部チームの関係は好きでしたね。

みんなそれぞれに悩みや迷いを抱えて、今の会社の現状に悲観しながらも、最終的

には最後の企画に向かって一丸となって突き進んで行く姿が小気味よく描かれて

いて、良かったと思います。

ただ、この企画が上手く行ったからといって、働いている人たちの境遇が今後

どうなるかは暗雲立ち込めているし、完全にスカッとするお話という訳でもない。

そもそも企画を立ち上げた張本人が、ああいう決断をしている訳だし。そこは、

ちょっと腑に落ちない気持ちもあります。でも、彼女は彼女で、前に進もうと

した結果の決断なので、頑張って欲しいとも思います。新しく何かを始めるのは、

すごく勇気がいることです。残る人も去る人も、新たな境遇で負けずに頑張って

欲しいです。

単館系の小さな劇場の映画館とかの雰囲気がお好きな方なら、楽しめるのでは

ないかな。