ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

恩田陸「愚かな薔薇」(徳間書店)

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恩田さん最新長編。600ページ近い作品なので、さすがに読むのに時間が

かかりました。とはいえ、リーダビリティは抜群なので、先へ先へとページが

進んで行ったのは間違いのないところでしたが。恩田版ダークファンタジー

という感じでしょうか。現代版の吸血鬼譚とも云えるし、壮大なスペース

ファンタジーとも云えるし。ミステリー要素も入っているし。なんか、ジャンル

分けの難しい作品でしたねぇ。ただ、それだけに、風呂敷を広げ過ぎた感もあって、

結局伏線を回収しきれずに、最終的には尻切れトンボのような印象に。いい意味

でも悪い意味でも、ああ、恩田さんらしいなぁという感じでしたね。なんせ、

14年間もかけて連載されていたそうで。そりゃ、伏線回収するのも大変だよなぁ。

最初の頃の設定とか忘れちゃいそう^^;

虚ろ舟乗りになる為に、ひと夏の間、虚ろ舟乗りの聖地である『磐座』に集められた

少年少女。そのうちの一人である高田奈智は、母方の故郷『磐座』に4年ぶりに

やってきた。親戚が経営する老舗の旅館で寝泊まりさせてもらいながら、事情も

わからぬままに、虚ろ舟乗りを育成する為のキャンプに参加させられることに

なった奈智は、磐座を訪れた翌朝、体調が変化し、吐血してしまう。これは、

虚ろ舟乗りの適性がある証拠らしい。虚ろ舟乗りになる為に、適性者たちは少しづつ

体調が変化して行き、やがて年を取らない身体になるという。食べ物も受け付けなく

なって行くが、その代わり、他人の血が必要になる為、『血切り』という行為が

行われるという。

自分の身体が化け物のように変質していくことに激しい抵抗を感じる奈智。しかし、

奈智の中で少しづつ血を飲むことへの渇望が抗えなくなって行く――。果たして、

虚ろ舟乗りとは何なのか。彼らの真の目的とは――?

 

以下、ネタバレ感想が含まれております。

未読の方はご注意くださいませ。

 

 

 

 

途中まではほんとに面白かったんですけどね。終盤の駆け足が勿体なかったなぁ

という感じ。意味深に出て来たキャラクターがほとんど意味をなさない扱いで

終わってしまったり、キャンプ自体の終わり方も唐突過ぎたり。奈智を巡る男子

二人のバトルも、もう少し盛り上がりが欲しかったな。虚ろ舟乗りのサラブ

レット、天知少年も奈智を巡るバトルに参加するのかな?と思ったら、そこも

関係なかったしな。まぁ、彼に関しては、そういう感情自体が芽生えない体質

だったりするのかもしれませんが。奈智の相手役が、結局幼馴染の深志に落ち着い

たところも、ちょっと意外だった。最初の方は全くそんな気配なかったように

思ったのだけど(深志の方はバレバレだったけど)。

奈智の友人、結衣が大臣にしたことの後始末の付け方も、いくら特殊な土地とは

言え、あんな杜撰でいいのか!?とツッコミたくなりました。メディアとかで

どんな報道されていたんだろうか。人が一人亡くなっているのに?

あと、結局もう一人の『木霊』って、やっぱり奈智だったの?そこもはっきりした

描写がないまま、仄めかすだけで終わったのはちょっと消化不良。

あと、奈智の『血切り』として名指しされていた浩司の元に最初にやって来た

少女は誰だったのか。何人かと血切りを交わした結衣?

うーむ。自分の読み取り不足なのか、モヤモヤが結構残ってるなぁ。

ミステリとしても、SFとしても、ちょっとどっちつかずで中途半端だったような。

 

でも、情景描写はさすがの美しさで、うっとりするようなシーンがたくさん

ありました。ジブリの世界のようなシーンも。特に蝶の谷のシーンは、アニメとかの

映像で観たらビジュアル最高だろうなと思いましたね。

血切りのシーンは妙なエロティシズムがあって、『吸血鬼美夕』のような美しさだし。

恩田さんの文章読んでるだけでも十分楽しかった。

まぁ、モヤモヤが残るのは通常運転って感じですしね(苦笑)。

 

ちなみに、画像の表紙は、初回限定萩尾望都先生バージョン。私は図書館で

借りたので、通常バージョンでした。残念。でも、通常バージョンも十分

かっこいい装丁でしたけどね。