ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

凪良ゆう「滅びの前のシャングリラ」(中央公論新社)

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随分前に予約していたものがやっと回って来ました。本屋大賞『流浪の月』は、

まだまだ予約数が多いから当分読めないだろうなぁと思って諦めてたんですが、

この間文庫落ちしたものが入荷されていて、割りとすぐに予約したため、

さほど待たずに回って来るかもと期待しております。

それまでに他の作品をぽつぽつと読んで行けたらいいなぁと思っている次第。

本書は、ひと月後に小惑星が地球に衝突することが決まり、地球滅亡へのカウント

ダウンが始まった世の中を描いた終末小説。こういう主題の作品は、以前にも

何作か読んだことがありまして、題材的にあまり新鮮味はなかったですね(

三浦しをんさんの『むかしのはなし』とか、YOASOBIの『アンコール』の原作とか。

読んでる間、ずっと頭の中で『アンコール』がかかっていたw)。

あとひと月で世界が終わってしまうということがわかって、人々の心は荒んで、

倫理観も秩序もすべてが乱れて行く。殺人も略奪も陵辱も当たり前。そんな荒んだ

世の中で残りの人生をどう生きるのか、を描いた作品です。一作ごとに主人公が

変わります。一話目は17歳のいじめられっ子、江那友樹。憧れの同級生藤森

さんと、東京を目指す話。二話目は、40歳のヤクザ者・目力信士。世界が破滅

する前に、忘れられない昔の女・静香に会いに行こうとする話。三話目は、40歳

のシングルマザー・江那静香が、再会した昔の男と共に、息子のピンチを救いに

駆けつける話。四話目は、29歳の山田路子が、歌姫であるLocoの自分を捨てて、

山田路子として歌を謳おうとする話。

荒唐無稽な話ですが、引きつけられて途中からほぼ一気読みでした。江那親子と

藤森さんが擬似家族を作って生活するくだりが好きだったな。みんな、それぞれに

重い枷を抱えて、それでも人生の残りの日々を精一杯生きようとするところが

たくましく、美しかった。ただ、人を殺しても物資を略奪しても当たり前という

殺伐とした空気が当たり前になってしまっているところが恐ろしかった。罪を

犯しても誰も罰しないから、やりたい放題。多少の罪悪感を覚えることはあっても、

引きずったりもしないし。感覚が麻痺してしまうのでしょうね。こういう切羽

詰まった状況に置かれると、人間の本性が現れるのでしょう。絶望して自殺する

人もいる反面、自分が生き残る為なら他人を傷つけても何とも思わない人もいる。

自分がこういう立場になったら、残りの時間をどう過ごすだろうか。最後の

瞬間は、誰かと一緒にいたいと思うかも。本書のラストのように、誰かと同じ

歌を聴いているのもいいのかもしれない。

個人的には静香さんのキャラクターがお気に入りです。強い母。でも、目力に

対して一途な想いを持ち続ける、女性としての愛らしさも持っている。息子に

対する無償の愛も。どんな場面でも愛情深い女性だな、と思えました。静香さん

に育てられたから、友樹はあんなに良い子に育ったんでしょうね。

ラストは、ハッピーエンドかアンハッピーエンドか。捉え方はそれぞれの読者

次第という感じでしょうか。小惑星が直撃を免れて、多くの人が助かる未来も

もしかしたらありえるのかもしれない。その場合、江那親子や友樹と藤森さんが

その後でどんな人生を生きるのか、そういう話も読んでみたい気がしますね。