ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

柚木麻子「ついでにジェントルメン」(文藝春秋)

柚木さんの最新作。ノンシリーズばかりを集めた短編集。連作でない短編集は

初めてらしい(帯に、『著者初の独立短編集』と書いてありました)。

なんとも、個性的なお話ばかりが収録されていて、柚木ワールド全開って感じでした。

実は、これの前に出た長編『らんたん』は、借りて読み始めたものの、最初の

100ページも読めずに挫折してしまったんですよね。津田梅子を巡る長編大河

小説で、どうにも物語に入っていけなくて。出て来る登場人物にもあまり好感が

持てないし。朝の連ドラとかになりそうなお話だな~って感じではあったのです

けどね。世間的には評価は高いようでしたが。

本書に出て来る女性たちも、みんなちょっと一癖も二癖もあるような人ばかり

でしたね。柚木さんの主人公って、ちょっと共感出来ないタイプが多い気が

するんですよねぇ、私。男性が主人公のものもありましたが、それはそれで

全く共感も好感も覚えなかったな。そういうキャラの方が物語としての面白味は

あるんでしょうけどね。

 

では、各作品の感想を。

『Com Come kan!』

これはとにかく、菊池寛のキャラクターが最高だった。なぜか菊池寛銅像と話が

出来てしまう新人女性作家のお話。菊池寛って、こんなに面白い人だったのかな?

主人公のSNSを乗っ取ってつぶやいちゃったり。いちいち、現代社会に順応している

ところがコミカルに描かれていて面白かったです。

 

『渚ホテルで会いましょう』

かつてのベストセラーの舞台になった渚ホテルに再びやってきた老作家。しかし、

ホテルは昔とは違って何もかもが現代風に変わっていて――。

枯れた作家が、昔と同じように若い女性を口説いて落とそうとしている姿がとにかく

痛々しかった。そりゃ、女性側もドン引きするよなぁと呆れました。でも、子連れ

男と触れ合ううちに、友情が芽生えて行くところは良かったです。子連れ男の奥さん

が行ったという『じごく』の意味にはずっこけましたけど^^;

 

『勇者タケルと魔法の国のプリンセス』

これはもう、何が書きたいのかさっぱりわからなかった。なんで、女性車両で

男女平等を叫んだ後、ゲームの世界に行ってしまうのか。主人公は、一体何が

やりたかったの?こんなヤツが電車の同じ車両にいたら、間違いなくキ○ガイ

だと思うだけだと思うけど・・・。ラスト、なぜ女性たちから拍手が起きたのかも

全く理解不能。私だったら、そんな反応にならないと思う。

 

『エルゴと不倫鮨』

これはどっかのアンソロジーで既読だった。いきなり高級鮨屋にやってきた、

くたびれた赤ちゃん連れの主婦が、シェフにめちゃくちゃな鮨を注文しまくるって話。

普通だったら、入店拒否扱いになるところだろうけど・・・後ろ盾があるせいで、

入店出来て、やりたい放題。まぁ、来ている客は不倫カップルばかりだし、男は

女性を見世物扱いするようなヤツばかりだったから、主婦にやり込められてちょっと

スカッとしたところもあるけれど。でも、普通だったら高級店でこういう言動してる

人がいたら、迷惑な客として嫌悪感しか覚えないでしょうね。

 

『立っている者は舅でも使え』

離婚してクズ夫から離れて実家へ戻って来た桃の元に現れたのは、元夫の義父・

恭介。なぜか、元夫よりも桃と暮らしたいと言い出して――。

最初はあんなに義父に対して邪険な態度を取っていたのに、暮らしてみたら結構

家事も育児も手伝ってもらえるとわかって、義父を追い出せなくなってしまう

桃の打算的なところが好きになれなかったです。だったら、もっと好意的な態度に

なってあげればいいのに、口では相変わらず邪険に扱うし。なんだか、義父が

気の毒になってしまった。とはいえ、離婚した息子と暮らしたくないからって、

嫁の方にすり寄る義父もどうかとは思いましたけど。私が桃の立場だったら、絶対

嫌だと思うけどなぁ。でも、一番嫌だったのはクズの元旦那だけどね。オチが

特になくて、ラストはモヤモヤしたまま終わってしまった。

 

『あしみじおじさん』

友人が勤める美容クリニックで整形をしようと決意をして訪れたら、待合室に

あった世界児童文学集に感銘を受けて、人生を変えてしまう女子大生の話。

いやいや、世界児童文学全集読んで、なんでこういう道に行こうと思うの!?

主人公亜子の思考回路は、私にとってはもう全く理解不能だった。自分の人生を、

誰かから援助してもらって切り開こうとするとか、どんだけ他力本願なんだよ。

それに協力する人間が出て来るところも、ご都合主義にしか思えなかったな。

こういう女が人生うまく行っちゃうなんて、なんだか世の中って理不尽だ。

 

『アパート一階はカフェ―』

働く独身女性しか住めない、同潤会大塚女子アパートメントが舞台。一話目に出て

来た菊池寛が再び登場するところがニクイ。

この頃の働く独身女子は、とにかくアグレッシブだったのでしょうね。男性に負け

まいと、必死に男尊女卑の世の中に抗おうとする意思の強さを感じます。ある意味、

この頃の女性の方が強かったのかもしれないなぁ。ウルトラモダンライスが美味し

そうだった。菊池寛はやっぱりいいキャラでしたね。