ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

名取佐和子「図書室のはこぶね」(実業之日本社)

『金曜日の本屋さん』シリーズや『ペンギン鉄道』シリーズ等が人気の、名取さんの

新作。図書室が舞台ということで、面白そうだったので手にとってみました。

予約本ラッシュ中に借りた為、期限ギリギリになってしまい、諦めるしかないか、

とも思ったのですが、他に予約者がいなかった為、無事延長して読むことが

出来ました。あぶなかった~。

読み始めたらほぼ一気読みで読めました。とっても爽やかな青春ミステリーで、

読み逃さずに済んで良かったです。

主人公の百瀬花音は、バレー部のエースでバリバリ体育会系の長身女子。しかし、

足の怪我で部活に出られなくなり、もうすぐ開催予定の体育祭の練習にも参加する

ことができなくなった。花音が通う野亜高校には、創立当初から体育祭で行われる

『土曜のダンス』という伝統行事がある。学校全体が、この時期になると各クラス

土ダンに向けて色めき立つのだ。しかし土ダンの練習に出られなくなった花音は、

友人の紗千から、自分の代わりに体育祭が終わるまで図書室当番を代わって欲しい

と頼まれ、引き受けることに。当番初日、図書室に顔を出すと、そこには花音と

共に一週間図書当番を担当する、隣のクラスの俵朔太朗という少年がいた。朔太朗

から当番の仕事内容を教えてもらい、最後にカウンターの掃除をしている途中、

花音は書類を入れるトレーの下にあった文庫本を落としてしまう。その文庫本は、

ケストナー飛ぶ教室だった。返却操作をすると、『在』の表示が出た為、

書棚に返そうとした花音だったが、書棚にはすでに同じ本が在庫していた。データ

上では一冊しかない筈で、花音が落とした文庫本にはしっかり野亜高校のバーコード

ラベルが貼ってある。そして、その本には一枚の紙片が挟まれていた。そこには、

不思議なメッセージが書かれていた。花音は、これは誰かが書いた暗号なのでは

ないかと考える。怪我をして体育祭に参加出来なり鬱屈が溜まっていた花音は、

目の前に出現したこの謎を解こうと意気込むのだが――。

10年前に貸し出された『飛ぶ教室』がなぜ野亜高校の図書室に返って来たのか。

章が進むごとに少しづつその謎が明かされて行きます。そして、誰がこの本を

図書室に返したのか。その人物は意外ではありましたが、明かされてみれば、

その人物以外にはあり得ないとも思えました。伏線がしっかり最後に生かされて

いるところに感心しましたね。

学校全体で体育祭でダンスを踊る。もう、青春そのもの!って感じで、学校中が

浮かれてうきうきしている感じが羨ましかったです。ただ、確かに、参加出来ない

生徒がいたら、疎外感とか半端ないだろうなぁと思いましたね。大多数が参加

出来るからといって、参加出来ない生徒は我慢しろ、と言うのは今の世の中の

考え方にはそぐわないとも感じます。かといって、一人の生徒の為に制度を変えて

しまう風潮もどうかと思う自分がいるんですけども。なかなか難しい問題だけれど、

その一人の為に立ち上がる勇気を持つことも大事なことなんだと教えてもらった

ような気がします。そこにいる誰もが自由に体育祭を楽しめるようにと考えられた

イデアには、膝を叩いて称賛したくなりました。

10年前の卒業生たちのキャラクターも良かったですね。郡司先生の奥さんが

あの人だというのは、かなり早い段階で気がついてしまいました。10年前の

5人の図書委員のメンバー知った時に。ミステリ好きな人なら大抵気がつく

んじゃないかなぁ。ちょいちょい伏線出て来ましたしね。

10年間『飛ぶ教室』を持っていた人物の過去に関しては、やりきれない思いにも

なりましたが、ラスト、花音が止まっていたその人物の心を動かしたのかな、

と思えてほっとしました。

花音のキャラクターから、恋愛関係のことは出て来ないだろうと思って読んで

いたので、途中からの彼女の心の変化には驚かされました。真っ直ぐ人の心に

切り込んで来る花音のような女の子には、彼のような優しく包み込んでくれる

ようなタイプがお似合いなのかも。

一つ気になったのは、朔太朗の容姿の描写で、毎回『鉢の大きな頭』という

言葉が出て来るのだけど、鉢が大きいって、頭が大きいって意味?なんか、

あんまりいい表現じゃないよなって出て来る度に気になりました。人の頭を

形容するのに、鉢って言葉使わないと思うんだけど・・・私が無知なだけ??

なんか、バカにしているようにしか思えなくて、そこだけはイラッとしました。

今回、問題になったケストナーの『飛ぶ教室』は以前読んだことがありますが、

すっかり内容忘れちゃっているので、また読み返したくなりました。素敵な

青春小説だったことは覚えているのだけれどね。

爽やかな青春小説がお好きな方には是非オススメしたい一冊ですね。