ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

ほしおさなえ「紙屋ふじさき記念館 春霞の小箱」(角川文庫)

シリーズ第5弾。主人公の百花がバイトする紙屋ふじさき記念館の閉館まであと

わずかとなり、記念館の閉館イベントの準備や、最後のワークショップの企画立案、

川越の活版印刷所との冊子作りなど、慌ただしく日々は過ぎて行く。記念館閉館後

のバイトのことや将来のことなど、思い悩む百花の前に、思わぬ事態が訪れて――。

今回、百花は、夏休みを利用して、大学の仲間と共に東秩父と小川町を訪れます。

みんなでわいわいと紙漉きを体験したり、書道用の和紙<料紙>について学んだり、

和紙についての見聞を更に深めて行きます。そこで、襖紙の工房で働く岡本という

女性と出会ったことで、染め紙にも興味を惹かれることに。岡本さんは、墨を使って

染め紙を作る墨流し職人だった。墨流しの美しさに目を奪われた百花は、ふじさき

記念館最後のワークショップに取り入れることに。墨流しという手法があるという

のを初めて知りました。実物を見てみたくなりましたねぇ。新たに学んだ知識を、

すぐに記念館の行事に取り入れようと思いつく百花がすごい。この企画力は、大学生

にしておくのがもったいないくらいだと思いましたね。しかも、それを以前採用

した箱作家とコラボさせることまで思いつくとか。そのまま、すぐに企業に採用

されてもおかしくないんじゃないかなぁ。こういう発想力というものが私には

皆無なので、すごく羨ましいです。新しいモノやコトを始めるのってワクワク

しますよね。ましてや、それが自分発信で始まるならば尚更。百花の経験って、

普通の大学生では絶対に得られないものだと思うな。もちろん、彼女の才能が

あってこそなのですけれど。

彼女の亡き父親によって書かれた『東京散歩』と三日月堂のコラボも、ファンに

とっては嬉しい企画ですね。今後、完全に二つのシリーズが共存する形になって

行きそうです。普通に弓子さんもレギュラー出演するようになりそうですし。

日月堂のその後も気になっていたので、こういう形で弓子さんたちのその後の

姿が知れるのは有り難い。順調に仕事も入って来ているようで、安心しました。

川越の三日月堂まで、百花と藤崎二人で挨拶に行く様子は、完全にデートだな、

と思いました(笑)。二人で高級鰻屋に入ったり。悲しいかな、傍からみたら

完全にデートだけど、当の本人たちにその手の雰囲気はゼロでしたが・・・。

もうちょっとお互いに意識して欲しいよ・・・。

ラスト、ついにこのシリーズにもコロナの魔の手が押し寄せます。リアルタイムで

時間が流れるようにしていたら、どうしたって避けて通れないですもんね・・・。

ふじさき記念館の終わりがこんな風になってしまうなんて。百花と共に、私も

とてもショックです。最悪のタイミングで、世の中が変わってしまった。

運が悪かったとしか言いようがありませんが・・・。

今後、シリーズはどうなってしまうのでしょうか。少しづつ、前に進んで行く

様子が描かれて行くと思いたいですが。藤崎さんが何か考えていそうなところ

だけが救いかな。ネット通販も順調みたいですしね。

どんな形でもいいから、ふじさき記念館を残してもらいたいと願うばかりです。