ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

山本甲士「迷犬マジック」(双葉文庫)

新刊情報でタイトルに惹かれて予約していた作品。山本さんははじめましての作家

さんですが、ちょこちょこ他の方のブログの記事でお名前をお見かけしていたように

思います。

以前、伊吹有喜さんの『犬がいた季節』を読んだ時、犬が次々と飼い主を変えて

旅する話だと思ったのに違ってた、みたいな感想を述べた覚えがあるのですが、

本書は、まさにその時私が思っていたようなタイプのお話でした。旅をするのとは

ちょっと違いますけど・・・。

迷いや悩みを抱えた人の前に、ふらっと現れる迷い犬マジック。保護した人は、

マジックと触れ合ううちに、なぜか少しづつ心の鬱屈がほどけていって、心

癒やされて行く、というお話。マジックと触れ合った四人の人々の奇跡の物語

が収録されています。

一話目は、息子家族から認知症を疑われ始めている老人、七山高生の物語。妻が

亡くなって寡夫暮らしになったが、最近どうも物忘れが激しくなっている。

息子や嫁からは認知症を疑われて、病院で調べてもらった方がいいと言われて

いるが、高生本人はそんなことはないと思っている。そんな高生の前に突然一匹

の迷い犬が現れた。首輪にはマジックと書かれていた。紆余曲折あって、飼い主

が見つかるまで高生が保護することになったのだが――。

マジックのおかげで孤立していた高生の生活に少しづつ彩りが加わって行く過程に

心温まりました。認知症の兆候すら改善させてしまうマジックの威力にはびっくり。

マジックには本当に不思議な力が宿っているのだろうとしか思えなかったです。

 

二話目は、津軽三味線で路上パフォーマンスをしている青年、屋形将騎の物語。

全く無名で、路上ライブの様子をYou Tubeに上げても動画再生数はごくわずか。

いずれはプロになりたいと思いつつ、ぱっとしない日常を過ごしていた。そんな

将騎の前にマジックが現れた途端、いろんなものが変わり始めて――。

マジックとのコミカルなやり取りがバズったことがきっかけで、一気に活動の場

が広がって行く辺りは、今どきの音楽が世間に浸透して行く方法のひとつとして、

リアルに描かれているなぁと思いました。商店街での街の人々との交流の様子も

心温まるもので良かったですね。

 

三話目は、一人で理髪店を営む独身中年男の岩屋充の物語。婚活をしてもうまく

行かず、中年になっても独り身のまま。数年前に母親が亡くなって以来、自己管理

が上手くできず、ぶくぶくと肥えてしまった。そんな充の前に迷い犬のマジックが

現れて以降、充の生活が激変していく――。

ぶくぶくと肥えてだらしない生活を続けていた充が、マジックの影響でどんどん

健康的になって行く過程が痛快でした。筋トレにはまったことで、容姿も精悍に

なり、挙げ句に婚活まで上手くいくように。筋トレにはまる人って、体重や体型に

変化が出るともう、続けずにはいられなくなるみたいですね。かくいう、うちの

相方がまさにソレです(笑)。毎日鏡の前で上半身裸になってニヤニヤしてるのを

見ると、なんだかな~って思いますね・・・^^;;

 

四話目は、会社を辞めて、亡き祖母の元文具店だった空き家に独りで住み始めた、

アラサー女子・鷹取苺の物語。仕事を辞めて誰とも会いたくないと引きこもり気味

だった苺の前に、迷い犬のマジックが現れて――。

マジックをきっかけに、旧友と連絡を取り、交友が再開したことで、旧友の

知らなかった一面が明らかになり、より深く友情を育めるようになったところが

良かったですね。そのおかげで本当に苺がやりたい仕事も見つかりましたしね。

 

マジックを保護したことで、四人の主人公たちそれぞれに素敵な奇跡が訪れました。

マジックは本当に不思議な犬ですね。彼の本当の飼い主は一体誰なのでしょうか。

四つのお話が微妙にリンクしているところも良かったです。

あと、主人公たちがそれぞれに突然マジックとの別れを経験することになるのですが、

それぞれに離れ難い気持ちを抱えつつも、別れを自然と受け入れている為、それほど

しんみりした別れにならないところが良かったな。それも多分マジックの魔法なの

でしょうけどね。

どのお話も心癒されるストーリーで、読んでいて温かい気持ちになりました。

そうそう、こういうのが読みたかったのよね~!と思いました(何様だw)。

あと、とにかくマジックが愛らしかった~!!

次はどんな人のところで奇跡を起こすのでしょうか。うちにも来てくれないかな。

迷い犬を保護するのは大変そうですけどね^^;

わんこ好きの方には是非オススメしたい一冊ですね。