ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

凪良ゆう「流浪の月」(創元文芸文庫)

2020年本屋大賞受賞作。意外と早く文庫が出たので、早めに読めて良かったです。

単行本の方だとまだまだ図書館の予約数が多くて予約する気になれなかったんで^^;

息もつかせぬくらいにぐいぐい読まされてしまう作品でした。本屋大賞受賞も納得

です。

主人公の更紗は、仲の良い両親の元で自由奔放にすくすく育ったが、父の病死を機に、

人生が転落する。最愛の夫を亡くした母親は自暴自棄になり、家事も育児も放棄した

挙げ句、男を作って家を出て行ってしまった。一人残された更紗は伯母さんの家に

引き取られたが、そこに彼女の居場所はなかった。特に、伯母さんの一人息子の孝弘

は更紗に嫌がらせばかりしてきて、大嫌いだった。ある雨の日の放課後、家に帰り

たくない更紗は、よく遊びに行く公園で時間を潰していた。傘も差さずに濡れそぼる

彼女の前に現れたのは、その公園に良く出没していた大学生の青年・文だった。

更紗の事情を察した文は、自宅に彼女を招き入れた。居心地のいい文の家から

帰りたくなくなった更紗は、そのまま文の家に居着いてしまう。ようやく自分の

居場所を見つけられた更紗の安息は、しかし長くは続かなかった。二ヶ月後、更紗

のわがままで動物園に出かけた二人は、人々の注目の的になっていることに気づく。

世間では、更紗は行方不明の少女として大々的に報道されていて、写真も晒されて

いたのだ。文は警察に誘拐犯として逮捕されてしまい、更紗は伯母の家に戻された。

しかし、伯母の家で孝弘に対して暴力を働いた更紗は、結局施設に行くことになり、

15年の月日が流れた。社会人になった更紗は、アルバイトをしながら恋人と同棲

生活を送っていた。ある日、同じ職場の人に連れられて訪れたカフェで、店長として

働く文と再会するのだが――。

どんなに本人が説明しても、更紗と文の関係を世間の人は理解してくれず、邪な目

でしか二人のことを見ようとしないところがもどかしかったです。でも、私が

同じ立場でも、やっぱり客観的な目で見たら、そんな風に感じてしまうのかも

しれません。二人の関係を言葉にして説明しようとするのは難しい。共依存

ような関係だと言ってしまえばそれまでだし。恋でも愛でもない。家族でもないし、

友情というのともちょっと違う。それでも、お互いに、意識しあって、魂で結ばれて

いるような関係。でも、世間的な目でみれば、それは歪な依存関係でしかない。

事実と真実は違う。更紗がどれだけ言葉を尽くしても誰にも理解してもらえない

ところがもどかしく、悲しかった。

15年経っても、更紗の中で文の存在は少しも色あせておらず、恋人が出来ても

心の中で求めているのは文のことだけ。自分のせいで犯罪者になってしまった文

への罪悪感と、ひと目でいいから会いたいという思慕の気持ち。文のいない生活

に慣れながらも、心のどこかでずっと文を求めている更紗の思いが行間から

伝わって来て、切なかった。恋人の亮君の言動は、始めから違和感しか覚えなかった

ので、次第に浮き彫りにされて行く彼の本性には、やっぱりな、という気持ちに

しかならなかった。次第にストーカー化して行く亮君の言動は恐怖でしかなかった

です。ただまぁ、15年後にカフェで文と再会した後の更紗の言動も、完全に

ストーカーのソレでしたけどね・・・^^;アルバイト生活なのに、文のマンションの

隣の部屋に住みたいと言い出した時は、『この子まじでヤバい子なのでは』と

思いました・・・。

 

以下、少しネタバレ気味です。未読の方はご注意下さい。

 

 

 

 

文の内面は終盤までほとんど出て来ないので、文が更紗のことをどう思っていたのか

がわからず、何を考えているのかわからない青年だなぁという印象だったのですが、

文視点の物語で彼の内面は身体的事情を知って、いろんなことが腑に落ちた感じが

しました。文の病気に関しては、はっきりした病名が書かれていないので、なんとなく

想像するしかないのですけれど。

ふたりが、お互いのことを全く同じように感じていたことがわかって、とても

心を打たれました。文にとってもまた、更紗はずっと心の支えであり、自分が幼い

心に傷を負わせてしまったという罪悪感に苛まれながら、ずっと幸せでいて欲しい

存在だった。

本当に、ふたりは似たもの同士だったんだな、と思いました。

二人はどうなってしまうのだろう、と最後の最後までハラハラしました。結末を

読んで、心が晴れるような気持ちにもなったものの、二人でいる以上ずっと

誰かに追われるような生活を続けなきゃいけない理不尽さに、歯がゆくも

なりました。二人の容姿が変わるくらい時間が経ったら、心静かに生活出来る

ようになるのかな。山の中のポツンと一軒家とかに住めばいいのかも?(テレビの

取材が来たら困るかw)。

気になったことはふたつ。一つは、更紗にイケナイことをしていた孝弘が、結局

何も咎めを受けていない点。文があれだけ世間的に酷い扱いを受けているのに、

本当の悪者である孝弘に何の天罰も与えられていないのが許せなかったです。

いつか、天誅が下るといいが。

もう一つは、更紗の母親。更紗の誘拐騒ぎの時に、全く連絡を寄越さなかったのも

酷いと思ったし、その後も一切接触なしってのもね。あれだけ可愛がっていた娘

だった筈なのに、そこまで実の娘のことを忘れられるもの?本当に海外にでも

行っちゃったんですかねぇ。一体どこで何をしているんだろうか。無責任にも

ほどがあるな、と思いました。9歳の誘拐騒ぎの時、一番問題にすべきだったのは、

その部分だったような気もする。なぜ母親が出て行った件がネットにさらされて

いなかったのか、その辺りも気になりましたね(ネット民が調べれば、その辺りは

絶対明らかになるはずなので)。

 

重いですが、とても読み応えがあり、いろんなことを考えさせてくれる作品でした。

面白かったです。