ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

宇佐見りん「くるまの娘」(河出書房新社)

『推し、燃ゆ』芥川賞を受賞された宇佐美さんの受賞後一作目。実は『推し~』

は読んでません。予約多くって諦めたのもあるし、他のブロガーさんの感想読んで

たら、自分好みっぽくないなぁと思ったから。本書は、王様のブランチで取り上げ

られていて、気になったので借りてみました。

タイトルから想像していた話とは限りなくかけ離れていましたねぇ。まさか、

こんなに重い話だとは思わなかった。なるほど、芥川賞作家だなぁっていう内容と、

文章。多分、文章はとても上手いのだと思う。表現力もあるのでしょう。

ただ・・・私にはあまり面白いと思えなかったな。こういう、日常を切り取った

淡々と進んで行くタイプの作品は、エンタメやミステリを好む私の守備範囲とは

かなり離れていて。いや、そういう作品が好きな場合もあるんだけど、この方の

文章の書き方が、あんまり私好みではなかったというか。純文学風?表現が少し

回りくどいというかね。そこが好きな人もたくさんいると思うんだけども。あくま

でも、私好みではなかったということです。

脳梗塞の後遺症で性格が変わってしまった母親のせいで、少しづつ狂わされて

行った家族の物語。リアリティはあると思う。浮き沈みが激しい母親に振り回されて、

どんどん自分を見失って行く主人公。父親もDV気質で気分屋だし、兄はそんな家族

に愛想をつかせて出て行き、疎遠状態。主人公自身も、そんな家族に少しづつ心を

蝕まれて行って、学校にいけなくなってしまった。弟は優しい性格だったけれど、

壊れた家族から逃げるように、結局は高校受験の後は祖父母の家に行ってしまった。

そんなバラバラな家族が、父方の祖母の葬式で会することになり――。

ずっと息苦しさを感じながら読んでました。気分の浮き沈みが激しい母親や、

気に入らないことがあると暴言を吐く父親、どちらにも嫌悪しか覚えなかった。

でも、どちらの性格も、その原因となるものがある訳で。母親は脳梗塞、父親は

実の母親からの酷い仕打ち。もし、それらがなかったとしたら、もともとは

生真面目で優しい性格だったかもしれず。同情すべきところもあるんですよね。

かといって、現状、かんこや他の子供たちに対する態度はまともとは言えず。

家族がバラバラになってしまうのも仕方がないのかな、と思わされました。家族の

形は千差万別とはいえ、こんな形は嫌だなぁ。主人公のかんこはかんこで、少し

他人への配慮が欠ける面もあって、かつての弟への暴言には辟易しました。悪気なく

酷い言葉を投げつけるのが一番始末に負えないんですよね・・・。それも、箍が

外れた両親に育てられてしまった弊害なのかもしれませんが。

終盤、かんこがくるまの中で寝泊まりするようになるところは、あまり理解

出来なかったな。単純に逃げ出したかったのかもしれませんし、両親に対する

抗議の気持ちだったのかもしれませんけど。タイトルの「くるまの娘」って、

こういう意味だったんだ、とそこでようやく腑に落ちましたけどね。

ラストで明らかになる、父親の実母が彼にした仕打ちは、あまりにも酷いと

思いました。その事実だけでも、父親がどれだけ幼い頃から差別されて来たのかが

伺い知れて、胸が塞がりました。だからといって、自分の子供にまで虐待めいたことを

するのは絶対に間違っているとは思うけれど。彼もまた、実親による被害者だった。

その事実を知って、打ちのめされる気持ちで本を閉じました。かんこの家族の

崩壊は、そこから始まっていたのかもしれません。

重苦しく、やりきれない気持ちだけが残る読後感でした。