ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

「彼女。百合小説アンソロジー」(実業之日本社)

百合小説ばかりを集めたアンソロジー。別に、百合小説が好きという訳ではないの

ですが、寄稿作家がとても豪華だったので、各作家さんがどんな百合小説を

書かれるのか気になったので予約してみました。

百合小説といっても、捉え方は様々。これって百合なのか?と思えるものも

入ってましたねぇ。なぜ西澤(保彦)さんに依頼しないのか(笑)。ま、確かに

本書の中に西澤作品が入ってたら、めっちゃ浮いちゃうだろうけど(苦笑)。

寄稿作家さんは以下。新進気鋭の作家さんばかりですね(乾さんはベテランだけど)。

相沢沙呼、青崎有吾、乾くるみ、織守きょうや、斜線堂有紀、武田綾乃円居挽

(あいうえお順)。

 

では、掲載順に感想を。

織守きょうや『椿と悠』

これは一番爽やかでライトな百合小説って感じ。変ないやらしさもないし、二人の

初々しい感じが良かったです。女の子同士じゃなかったら、普通に少女マンガの

読み切りにしても良さそうなお話。これを冒頭に持って来たのは正解じゃないかな。

 

青崎有吾『恋澤姉妹』

二番手にこの問題作を持って来ましたか、という感じ。かなり面食らわされる

内容でした。恋澤姉妹という世界最強の殺し屋姉妹を殺そうとする女の話。姉妹を

殺しに行く人々がばったばったと殺されて行く、なんとも荒唐無稽な内容でした。

一体これのどこが百合小説なんだ?と思いながら読んで行くと・・・ラストで

しっかり百合要素が出て来て、なるほど、という感じでした。

 

武田綾乃『馬鹿者の恋』

自分のことを好きでいてくれる相手に対して、いつも馬鹿にした態度に出ていたら、

相手に他に好きな人が出来て足元を掬われる羽目になってしまうお話。素直に

自分の気持ちを伝えていれば、こんなことにはならなかったんでしょうね。しかし、

あっさり転校生に心変わりする萌にもちょっとガッカリ。ま、あれだけ馬鹿にされ

てれば、嫌になっても仕方がないか。

 

円居挽『上手くなるまで待って』

大学の文芸サークルに所属していたなぎさは、みんなの憧れだった繭先輩と二人で、

文藝バトルで相手を打ちのめしまくっていた。誰もがなぎさは作家になると思って

いたが、結局卒業後は普通に就職して繭先輩とも疎遠になってしまった。しかし、

卒業後何年もして、突然大学時代になぎさが書いた小説がネット上で公開された。

一体公開したのは誰なのか。当時文藝バトルでなぎさが打ち負かした三人のうちの

誰かなのか――。

これはあんまり百合小説って感じではなかったですね。憧れの繭先輩は普通に男と

結婚しちゃうし。ネット公開の犯人もやっぱりね、って感じだったしなぁ。なぎさの

結婚スピーチもいまいちピンと来なかったしね。

 

斜線堂有紀『百合である値打ちもない』

女同士でチームを組んでゲームの大会に出て、人気を博していたママノエこと、

ママユとノエ。しかし、美少女のノエに対して、ママユはお世辞にも美しい容姿とは

言えず、釣り合わない二人を批判する世間の声にママユは怯えていた。ある日、

ママユはノエと釣り合う容姿になるため、整形することを決意するが――。

ママユが整形したことで、ノエのママユへの気持ちが変化してしまったりするのかな、

と思いながら読んでいたのですが。お互いの想いが純粋なのが伝わって来て、これぞ

百合小説って感じの終わり方だったように思います。

 

乾くるみ『九百十七円は高すぎる』

有名なミステリー小説『九マイルは遠すぎる』へのオマージュでしょうかね。

いや、そっちは未読なんだけどね(おい)。憧れの先輩が漏らした『九百十七円は

高すぎる』の言葉の意味を推理してつきとめようとする杏華と敦美。この値段は

一体何を意味していたのか?

いろいろ深読みしていた二人ですが、真相はなーんだ、って感じのものでした。

まぁ、そこがリアリティあって良かったのかもしれませんけどね。少なくとも、

ドーナツ24個よりはね(苦笑)。

 

相沢沙呼『微笑の対価』

美しい友人の為に殺人の共犯者になり、彼女にすべてを捧げて来た優香。しかし、

彼女は一緒に住むようになっても依然として夜の仕事を止めてくれず――。

相手に対する想いが、次第にお互いの人生を狂わせて行く――ラストに一番

重い作品を持って来たのかな、と思いました。紫乃の優香に対する本当の想いは、

最後まで明らかにされず、彼女の真意には翻弄されました。最後に騙された、と

思ったのだけど、更にそこから反転があり。相沢さんらしい仕掛けの一作と云える

でしょうか。あの翠の瞳の女性も出て来てニヤリ。

 

各作品の扉絵も、それぞれに違うイメージのイラストレーターさんを起用していて、

作風と合っていて良かったです。

私は、円居さんと相沢さんのイラストが好みだったな。表紙の絵も好きだけど。