ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

長岡弘樹「殺人者の白い檻」(角川書店)

長岡さんの新刊(刊行ペースが早いから最新刊ではないかも?^^;)。

脳外科医の尾木敦也は、刑務所のすぐ隣の病院に勤務していたが、六年前に

両親を強盗殺人で失って以来、スランプに陥り、最近は休職中だった。そんな

尾木に、ある日『隣』からくも膜下出血で搬送されて来た『スペ患』の執刀を

して欲しいと院長から頼まれる。休職中を理由に断ろうとしたが、院長命令と

言われ押し切られてしまう。手術は上手く行ったが、執刀後、尾木はこの患者が

両親を殺した罪で起訴され、死刑判決が出た定永宗吾だと知り、愕然とする。

定永には重い後遺症が残り、リハビリが必要な状態だった。死刑執行は体調が万全な

状態でなければ実行されない。定永は裁判から判決が出るまでずっと、犯行を

否認していた。定永はリハビリを拒否するかもしれない――しかし、定永はリハビリ

に意欲を見せ始めた。定永の真意とは。

被害者遺族として定永を憎む反面、執刀医として自分の患者である定永を見守ら

なければならないという、究極の立場に立たされた脳外科医の苦悩を描いた

医療ミステリー。長岡さんらしい主題だなぁと思いました。

医者としては患者を助けたい、でも両親を殺した犯人には死んで欲しい、両方の

気持ちのせめぎ合いの心理描写がリアルで、尾木の苦悩が伝わって来ました。

犯罪者を執刀するお医者さんは、いつも理性と倫理のせめぎ合いだったりするの

かな。無差別殺人を犯した犯人とか、子供を殺した幼児性愛者とか、憎むべき

犯罪者はたくさんいて、犯罪時に大怪我を負って搬送されるケースも多い。でも、

執刀する医者にとっては、手術台に乗った時点で、ただの『怪我を負った助ける

べき患者』になるのだろうか。そう考えると、お医者さんって、やっぱり大変

だしメンタルもやられそうな職業だなぁと思う。尊敬の念しかないな。

尾木は、複雑な思いを抱えながら、リハビリに励む定永と少しづつコミュニケーション

を取って行くうちに、定永に対する思いにも変化が現れて行く。定永は無実かも

しれない。しかし、その場合、真犯人が見つからない限り、憎むべき対象が

いなくなり、自分の気持ちの行き場がなくなってしまう。尾木の苦悩と逡巡が

伝わって来て、胸が痛みました。

真相は、なるほど、そういうことだったのか、と思いました。でも、さすがに

偶然が過ぎるような印象もありましたけど。尾木の妹である菜々穂が一番可哀想

でしたね・・・。ここまで待たされて来て、挙げ句この結末とは・・・。相手の

罪深さに、二重に腹が立ちました。まだ、支えてくれる兄がいて良かったのかな。

菜々穂にはこの先幸せになって欲しいなぁ。

長岡さんらしい、医療ミステリーでした。