ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

村田沙耶香「信仰」(文藝春秋)

コンビニ人間以来の村田作品。こちらも、王様のブランチで紹介されていて、

興味を惹かれたので予約してありました。

なんとも、へんてこな作品ばかりを集めた短編集です。いやー、ほんと、この人の

頭の中はどうなってんだろうか。

エッセイっぽい作品もあったりして、いきなり作者の顔が出て来て戸惑ったところも

ありましたが、村田さんらしい奇抜な設定の作品ばかりで、不思議な読後感でした。

まぁ、正直理解できない作品も多々ありましたけど、この人にしか出せない世界観

みたいなものは楽しめました。ちょっと、舞城(王太郎)さんっぽい作品なんかも

あったかな。天才は奇才ってことなんでしょうねぇ。

印象に残ったのは、表題作の『信仰』、生存率をテーマにした『生存』、エッセイ

っぽい『彼らの惑星へ帰って行くこと』、多分完全にエッセイである『気持ちよさ

という罪』辺りかなぁ。他はちょっとSFぽさが入っている作品が多かったような。

『信仰』は、まさしく信仰について考えさせられる作品でした。『原価いくら?』

が口癖で、どこまでも現実主義の主人公が、怪しげなカルト商法に誘われて、足を

突っ込もうとするお話。でも、どこまでも現実主義だから、どっか引いてるという。

ラストは想像するともう、カオス。なんじゃ、こりゃ、って感じでした。

『生存』は、自分の生い立ちやら頭脳やらで、生まれつき生存率が決まってしまう

世の中の話。努力次第で多少は生存率UPも望めるとはいえ、世知辛い設定だなぁ

と面食らわされました。最後は努力することさえ放棄した主人公の投げやりさに

なんだか胸が締め付けられる気持ちになりました。パートナーの彼もなんだか

気の毒だった。

『彼らの惑星~』『気持ちよさ~』は、村田さんご自身の生きづらかった経験が、

文章からにじみ出ているように感じました。心の中にいる『イマジナリー宇宙人』

って存在は、きっと誰もが似たような経験あったりするんじゃないかなぁ。

現実にはない、どこか違う世界にいる筈の友達。まぁ、言ってみれば現実逃避

ってやつですけど。それがないと、自分を保っていられない時って、絶対誰にでも

あると思うんだよね。辛くて逃げたい時、助けてくれる存在や場所。空想の世界。

それは精神的な弱さなんかじゃない。自分を逃がす為に、絶対に必要な場所なんだと

思う。のほほんとしていて不思議キャラだと思っていた村田さんの、心の深淵

を覗いたような気持ちになりました。

『気持ちよさ~』は、多様性という言葉についても考えさせられましたね。最近

流行りの多様性。なんでもかんでも多様性。多様性を認めろ。個性を認めろ。

それで傷つく人もいるんだな、と。マイノリティだからいいって訳でもないし、

みんなと一緒だからいいって訳でもないし。その人それぞれが認められる世の中

になれば良いなと思わされました。