ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

秋吉理香子「終活中毒」(実業之日本社)

秋吉さん新作。以前に読んだ『婚活中毒』に続いて、今回のテーマは終活。四人の

終活話が収録されています。どれも面白かった。救いのないオチ、心温まるオチ、

グッと来るオチ、ほろっとさせてくれるオチ・・・同じ終活をテーマにしていても、

読後感がどれも違っていて、バラエティに富んだ作品集になっていると思います。

自分も四十代後半になってきて、少しづつ終活のことも考え始めなきゃいけない

のかなぁ、と身につまされるところもありましたね。

 

では、各作品の感想を。

 

『SDGsな終活』

癌に侵され、余命僅かの真美子と結婚した僕。真美子は、残りわずかな時間を、

SDGs活動に費やすと決め、地方に引っ越して来た。都会暮らしが慣れていた僕

には、真美子の望む暮らしは少しも楽しくなかったが、これもあと僅かの辛抱。

真美子の命はあと一年半ほど。真美子が亡くなれば遺産が手に入り、楽しい暮らし

が待っているのだ――しかし、事態は思わぬ方向に進んで行くことに・・・。

まぁ、こうなるだろうなっていうオチでしたね。打算的な主人公にムカムカして

いたので、ある意味痛快にも思えたけれど、真美子のぶりっ子な言動にも辟易して

いたので、どちらにも嫌悪の気持ちしか持てなかったですね。ま、どっちもどっちで

一周回ってお似合いの夫婦だったのかも。四作の中では、一番秋吉さんらしいイヤミス

的なオチじゃないかな。

 

『最後の終活』

妻が亡くなって以来ずっと疎遠だった一人息子の浩未が、妻の三回忌を理由に突然

戻って来た。しばらく家に一緒に住むという。もともと折り合いの悪かった息子の

突然の申し出に戸惑ったものの、帰って来た浩未は以前とは別人のように優しく

なっていた。浩未は、三回忌をするにあたって、あちこちボロが来ている実家の

リフォームをするべきだと言う。浩未に説得されてリフォームを承諾したわたしは、

二人で少しづつ家の整理を始めるのだが――。

息子がいやに高額のリフォームを勧めるから、変だなぁとは思っていたのですが・・・

案の定な展開へ。やっぱりこうなるか、と思いながら読み進めて行くと、ラストで

予想外の出来事が。いや、途中の怪しげな電話が、こう繋がるとは!しかも、

うんざりするような展開の末に、こんな感動が待っているとは思わず、いい意味で

一番裏切られた作品だったかも。

 

『小説家の終活』

大人気作家の花菱あやめが亡くなった。かつてあやめと作家仲間だったわたしは、

あやめの形見分けに来ないかと誘われた。あやめとわたしは、過去に少なからぬ

因縁があったが、参加することにした。そこでわたしは、あやめが生前使って

いたワープロを貰い受けた。そのワープロの中に一枚のフロッピーディスク

残されており、中を見てみると、彼女の未発表作と思しき小説が保存されていた。

読んでみると、素晴らしい傑作だった。そこで、わたしは出来心で、この作品を

自分の書いたものとして当時の担当編集者に送ってしまった。すると、担当は

興奮して、これを本にしようと言って来て――。

亡くなったあやめは、過去に主人公の小説家に対してしてしまったことをずっと

悔やんでいたのでしょうね。主人公がどんどん本当のことを言えなくなり、窮地に

陥って行くところにハラハラさせられました。でも、彼女が最後に選んだ選択は、

彼女の小説家としての矜持を感じました。一作ヒットしたところで、大事なのは

その後ですから。文章の違いとかクセとか、誰かしらにバレる可能性も高いでしょう

しね。でも、主人公がこれを機に、再び文章を書く気力が持てたのは良かったと

思いました。

 

『お笑いの死神』

売れないお笑い芸人の俺は、貧乏ながらにヨメと子供と幸せに暮らして来た。ずっと

苦労かけて来たヨメをもっと幸せにしてやりたいと決意した矢先、医師から非常にも

癌を宣告されてしまった。余命僅かな俺は、最後にお笑いグランプリに挑戦し、

ヨメに優勝賞金を残そうと考えた。その日から、猛特訓が始まった。一回戦当日、

会場には怪しげな黒装束の男がいた。そいつは、以前、自分のライブの時に会場

にいて、一度も笑わなかった男だった。一、二回戦もその先に進んでも、やっぱり

男は会場にいて、一度も笑うことがなかった。しかも、男は回を重ねるごとに近い

席に座っている。もしや、男は死神なのでは――?

男の正体は思っていた通りでした。正体明かすの遅すぎだよ・・・。主人公のヨメ

が本当にいい子で頑張り屋で、だからこそラストは切なかった。子供と一緒に、

幸せになって欲しいな。きっと主人公もそれを一番望んでいると思う。