ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

歌田年「紙鑑定士の事件ファイル 偽りの刃の断罪」(宝島社)

個人的に一作目が面白かったので、二作目も手にとってみました。今回は中編が

三作入った中編集。前作で紙鑑定士渡部のバディとして活躍したプラモデル造形家

の土生井に代わり、今回のバディはフィギュア作家の團。土生井のキャラも好き

だったので、大幅に出番が減ったのはちょっと残念だったのですが(多少は出て

来ますが)、今回初登場の團氏もなかなか良いキャラクターだったので、こちらは

こちらで良い相棒だと思いました。どちらにしても、マニアックな技術と知識を

持っていることに変わりはなく、紙オタクの渡部も入れて、みんな自分の好きな

物に対する情熱がすごいなぁという感じ。好きこそものの上手なれ、とはよく

言ったもので、そのモノへの愛情や情熱があればあるほど、達人の域まで到達出来る

ものなんだなーと思わされました。

一話目の『猫と子供の円舞曲』は、依頼人が小学生の女の子。野良猫虐待に使われた

白い紙粘土の正体を探るお話。

容疑者のひとりとして登場する團ですが、人柄とその知識の広さで渡部の心を掴み、

その後の二作でも大活躍することに。身勝手な理由で野良猫を虐待する犯人には

腹しか立たなかったです。依頼人梨花が、転校してしまった少年と再び仲良く

なれて良かったです。梨花と渡部のラインのやり取りも微笑ましくて好きでした。

 

二話目の『誰が為の英雄』は、團が受けた、アメコミのキャラクターの一品物

フュギュアを巡るお話。依頼人の女性は、父親がいなくなって以来ふさぎ込みがちの

息子の為に、好きなアメコミ・キャラクターの一品物フィギュア制作を團に依頼。

出来上がったフィギュアは素晴らしい出来だったが、なぜか息子はそれを見た瞬間

気に入らないと突き返して来た。息子が望むフィギュアとは一体どんなものなのか?

印刷された青色の違いから、紙の不良に気がつく渡部の観察眼と紙の知識に脱帽

でした。紙鑑定士の面目躍如というお話でしたね。息子が本当に拘っていたのが

フィギュアではなく、あることだったところにちょっと拍子抜けしましたけども。

少年特有の反抗期のように見えて、まだ母親が必要な子供だったということなん

でしょうね。

 

三話目の『偽りの刃の断罪』は、渡部の旧知の石橋刑事からもたらされた案件。

懐紙に書かれた古風なラブレターの送り主が、送り手の女性の夫を刺殺し、家の

一部を焼いた罪に問われているという。しかし現場から凶器は消えていた。石橋

刑事は容疑者の人となりを知っていて、無実だと信じているらしい。渡部と石橋は

協力して事件を調べ始めるが。

コスプレ好きの仲間三人内で起きた事件。凶器消失の理由は、なるほど、と思わされ

ました。こんなモノが実在するんですねぇ。確かに、ソレって凶器になる時あります

ね。私もよく手を切ったりするし。特殊な加工をすれば、いくらでも鋭い刃になり

そう。

相変わらず、派手な車の持ち主である真理子さまはカッコ良かったです。もう少し、

渡部との絡みが見たいなぁ。お互いに憎からず想い合ってる風に見えるんだけど

なぁ。真理子さんの送迎が終わったら、二人の関係はどうなっちゃうんでしょうか。

 

今回も、ちょいちょい挟まれる紙ウンチクに感心したり、若干うんざりしたり(笑)。

でも、基本的には読みやすいですし、キャラクターも良いので、さくさく読めて

楽しかったです。

冒頭に、本の各部位の名前と、使っている用紙の詳細な解説が入っているあたり、

作者の紙に対する拘りを感じました。装丁も凝っていて素敵でした。