ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

奥田英朗「リバー」(集英社)

奥田さんの最新作。648ページの長編。いやぁ、読んでも読んでも終わらなくて、

一週間くらいかかったかなぁ。面白くない訳じゃないので挫折とかは全くなかった

けれど、犯人逮捕までがとにかく長くて長くて。同じ事件を複数の人物の視点から

語られる為、登場人物もかなり膨大だし。同時間に起きた出来事を複数の視点で

追って行く形なので、良く言えばとても丁寧、悪く言えば非常に回りくどい、

というのが正直な感想。ただ、明らかにクロだとわかる犯人でも、明確な証拠が

なければ、ここまで警察は逮捕出来ないものなんだなぁというのが非常によく

わかる作品でした。実際の犯罪捜査の内情はきっとこんな感じなんだろうなと

思わされました。これこそまさに、疑わしきは罰せずの典型的な例じゃない

でしょうか。

ベースとなるのは、群馬と栃木を流れる渡良瀬川の河川敷で起きた、若い女性を

ターゲットにした連続殺人事件。十年前にもほぼ同様の手口で若い女性が続けて

殺された事件が起きており、犯人は未逮捕のままだった為、同一犯の犯行が

疑われた。警察は、十年前に被疑者となったが、証拠不十分で起訴出来なかった

男を再びマークするが、調べを続けるうちに新たな容疑者が浮かびあがり――。

群馬県警の刑事、栃木県警の刑事、十年前の事件の被害者の父親、若手の女性

新聞記者、容疑者と目された男の恋人・・・いろんな人の視点から事件が追われて

行きます。群馬と栃木の刑事は、メインに出て来る群馬のイチウマ(斎藤一馬)

くらいしか記憶に残らなかったなぁ。刑事いっぱい出て来るんだけど。その他

大勢、みたいな印象。あとリタイアした元刑事の滝本はいろんな意味で記憶に

残ったけど。登場人物で他に印象的だったのは、十年前の事件の被害者の父親、

松岡ですね。20歳の愛娘を殺され、犯人も捕まっていないという点は非常に

同情すべき人物ではあるのですが・・・その行き過ぎた言動には何度も辟易

させられました。途中から目の病気で、片目がほとんど見えないような状態

になったにも関わらず、車を運転しまくるし。そのうち事故るんじゃないかと

ヒヤヒヤしました(結局その最悪の事態は起きなかったのでほっとしましたが)。

まぁ、不甲斐ない警察に任せていては犯人はいつまで経っても捕まらない、と

焦る心情は理解出来るのですけどね・・・。犯人を捕まえたいという執念は

凄まじいものがあり、途中からはもう、その言動は狂気の沙汰でしたね。警察

だけじゃなく、妻や息子さえも引いてしまっていて、周囲から孤立して行くところは

ちょっと哀れになりました。最後まで好感は持てなかったですけどね。

肝心の犯人に関しては、三人の容疑者がいる中で、中盤以降はもう、ほぼある一人

の人物で決まりだろう、という流れになっていくのですが、証拠が見つからない為、

逮捕に至らない。そこからがまた長い、長い。少しづつ外堀を埋めていって、

とりあえず微罪で別件逮捕までは持って行くのだけれど、ひたすら黙秘。何日間

拘留してもひたすら黙秘。どう考えてもこの男が犯人だろう、という証拠も

上がって来るものの、決定打になるものではない上に自供もない為、事件は一向に

解決に至らない。その辺りの駆け引きは緊迫感もありましたし、非常にリアル

でしたね。なかなか事件が動かないから、若干中だるみ感もありましたけどね。

非常に読み応えのある犯罪小説だったのは間違いないです。ただ、最後まで

犯人の心情が一切出て来なかった為、動機がよくわからないままだったのは

ちょっと消化不良だったかな。まぁ、なんとなく推察出来るものはあるのです

けれども。

容疑者の一人である県議の息子・健太郎の多重人格ネタには面食らいましたが、

犯罪心理学者の篠田とのやり取りは面白かったです。篠田の飄々としたキャラは

作品中一番個性があって好きだったかも。他に好感持てる人物がほとんどいなかった

せいもありますけどね^^;終盤、この健太郎が予想外の形で事件に関わって

いて、かなり驚かされました。

しかし、この事件、裁判はどうなるんでしょう。判決もどんな形で下されるのか。

どうせなら、そこまで書いてもらいたかったなぁ。判決下るまで、時間も相当

かかりそうですけどね。犯人は完全にサイコパスだと思うので、きちんと罪を

暴いてきちんと判決を下して欲しい。

あと、ひとつ気になったのは、松岡の娘がなぜターゲットに選ばれたのか。松岡は

娘を信じていたけど、娘が何らかの火遊びをしていたのは間違いないんでしょうね

・・・。裁判でその辺りを犯人が証言するとは考えにくいけど、もしその場合、

松岡はどうなってしまうのでしょうかね・・・。そこはちょっと気になりました。

 

腕がしびれましたが(外出先には分厚すぎて持って行けなかった^^;)、

奥田さんらしい読み応え十分のクライム・サスペンスでした。