ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

ほしおさなえ「菓子屋横丁月光荘 金色姫」(ハルキ文庫)

月光荘シリーズ第5弾。家の声が聞こえる孤高の青年・遠野守人が主人公。月光荘

のイベントスペースの運営を任されることになった守人だったが、その前に大学院

修士論文提出が控えていた。担当の木谷先生からは、草稿を渡す度に大量の

赤字修正が入ったが、少しづつ形になって行った。晴れて論文提出を果たした小正月

守人は『庭の宿・新井』で開かれる繭玉飾り作りのイベントに参加していた。

イベントの様子を取材し、記事にして欲しいと頼まれたからだ。そこには

月光荘に住むことになってから守人が出会った様々な人が集まった。その中には、

友人の田辺の祖母・喜代も含まれていた。喜代は守人のように、家の声が聞こえる

人だった。喜代はかつて養蚕を営む家庭で育ったという。当日は楽しそうにイベント

に参加した喜代だったが・・・。

守人の修論提出もうまくいき、とりあえず卒業後の進路も決まりつつある中で、

守人はついに幼い頃に別れたきりの風間の親戚を見つけ、対面することになります。

風間側の人々はみな優しくて素敵な人ばかりでしたね。そして、守人が反発を覚えた

遠野の祖父の数々の行動の真の意味も明らかに。きっと遠野の祖父は、とても

不器用な人だったんですね・・・。ちゃんと、真実を告げれば誤解が解ける筈

なのに、守人の為に口を噤んでいた。憎まれても、恨まれても、守人を悲しませる

方が辛かったのでしょうね・・・その心中を思うと、切なくなりました。風間の

祖母の願いでもあっただけに、口を噤むしかなかったのでしょう。でも、

できれば、生前に真実を話してあげてほしかったな。守人に、遠野の祖父との

優しい思い出も残してあげて欲しかった。

そして、今回はとても辛い別れも経験することになりました。繭玉の回から

そんな予感はしていたのだけれど。守人が、また大切な人との別れを経験することに

なってしまった。それでも、悲しいだけの別れではなかったので、まだ救われた

かな。きっと彼女の魂は今も、家と共にあると信じたい。

守人が初めて自分の秘密を、『聞こえない人』に打ち明けたこともびっくりしました。

それだけ、彼に心を許しているんだなぁ、守人にそういう人間が出来て良かった、

と思えました。相手の反応にもほっとしましたしね。これから、いろいろと

相談できることも増えそうです。

蚕って不思議な存在ですよね。基本虫嫌いの私なので、当然ながらイモムシ系も

全く苦手なのですが、なぜか蚕が桑の葉をむしゃむしゃ食べている姿は可愛いと

思えてしまう。昔から『お蚕さま』と呼ばれているのをよく耳にしていたから

(いろんな場面で)、神聖な存在って印象があるせいでしょうか。少し前に、

You Tubeで、実際に蚕飼育セットなるものを購入して(そんなものがあるのも

びっくりだったけど)、家で蚕を育てる人の実録動画を観たんですよね。蚕の生態

って本当に面白くて、最後まで見入ってしまった。ちゃんと、繭を作るところまで

達成していて、すごいなぁと感心してしまった。蚕が吐く糸って、実はいろんな

色があって、その人が育てた蚕の糸は黄色というか、金色っぽかった。白い糸を

吐かせるのは、人間が改良した結果なのだとか。へぇボタン100個押したく

なりました(笑)。しかも、その人、成虫になるまで育てていて。成虫って

白っぽい蛾なんですけどね。目が退化していて見えないし、蛾なのに飛ぶことも

出来ないし、本当に蚕を育てる為にだけ生まれるっていうのが何ともやるせない。

そういうの知っちゃうともう、愛おしい存在にしか思えなくなるから不思議(笑)。

メスは卵生んだら死んじゃうらしいしね(オスも似たような感じだったような)。

昔の人は、生糸を作って下さる、ありがたい存在だったのだろうな、と粛々とした

気持ちになりましたね。

話がそれてしまった^^;きっと、喜代さんにとっても、蚕はとても尊い存在

だったんだろうな、と思いました。

次巻ではいよいよ、守人も社会人ですかね。月光荘の運営だけで食べて行けるのか

ちょっと疑問は覚えますが、とにかく川越で居場所を見つけられたのだから、

迷わず前に進んで欲しいですね。頑張れ、守人~。