ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

似鳥鶏「名探偵外来 泌尿器科医の事件簿」(光文社)

似鳥さんの最新作。医療もののミステリーというのは昨今それほど珍しいものでは

ありませんが、その中でも泌尿器科医が主人公というのは結構珍しいのではないか

と思います。身体の中でも非常に重要な器官であるものの、いざ病気になったら

病院に行くのに勇気が要る外来No.1と言っても過言ではないのでは。そんな泌尿器科

に勤める鮎川の元には、様々な症例の患者がやって来る。人に言えないデリケートな

部位である為、訪れた患者は嘘をついたり症状をごまかしたり、時には秘密を抱えて

いる場合も多く、診察は慎重に行わなければならない。そんなある日、鮎川の元に

付き添いもなく一人で、十三歳の中学生が診療にやってきた。デリケートな部位に

火傷をしたという。さほどの重症でもないようなので軟膏を出して帰したのだが、

帰した後で鮎川は、今の患者にある違和感を抱く。すると一週間後、再び同じ少年が

診療にやってきた。今度は、前回火傷をした場所の反対側に、凍傷のような傷が

出来たという。この少年に一体何が起きているのか――。

下ネタ満載ではありますが、こういうデリケートな部分に問題があった場合の症例

としてはなかなかリアルなものが多く、患者側の必死さも、それをなんとかして

あげようという医師側の真摯さも伝わって来て、なかなか読ませられる作品でしたね。

一話目の患者の少年が、質問サイトの情報に惑わされて、本来やってはいけない

ことをしてしまうくだりとか、いかにも今のSNS時代にありそうでリアリティが

ありました。それだけに、面白がって情報を与えた諸悪の根源である犯人には怒り

しか覚えませんでしたが。どうして自分と関係ない第三者に向かって、こんな悪意が

向けられるんだろう。自分と関係ないからこそ、やれるとも言えるのかもしれない

けれど・・・。こういうことを平気でやれてしまう神経がもう理解不能でした。

ラストの犯人もそうだけど。自分とは直接関係ない他人に向ける(本人にとっては)

悪気のない悪意。こういうモンスターたちが生まれてしまうのはなぜなんだろう。

ただただ、空恐ろしいと思いました。

2話目の夜尿症で悩む少年の話に関しては、完全に毒親の被害者だと思いましたね。

あんな抑圧された育てられ方したら、そりゃ鬱憤がたまりにたまって、爆発する日が

来るのは当然だと思う。だからって、少年がしたことが許されるとは思わないけどね。

犬神師長の母親に向けたタンカにスカッとしました。師長とケースワーカーの忍さん

はいいコンビですよねぇ。この二人が揃ったら、誰も言葉では敵わないのでは・・・。

この二人の女性キャラが抜群に立っていて、作品にいいアクセントになってましたね。

特に元ヤン(多分)師長のキャラは最高でした。こんな師長いるかよ!ってツッコミ

たくなりましたけど、いろんな場面でイケメン過ぎて惚れました(笑)。

3話目はもう、女の私でも読むのがキツかったくらいだから、男性が読むのは

本当にキツいんじゃないかなぁ・・・。ちょっとした出来心でやってしまったことが、

あんな結果に繋がってしまうなんて。男性にとっては、もう、この世の終わりの

ような気分になってしまう筈で。身から出た錆とはいえ、さすがにこの結末は

気の毒になりました。男性にとっては、ホラー小説よりも恐怖な作品じゃない

ですかね・・・。

最終話は、やっぱり似鳥さんらしく、スケールの大きな重大事件。なんでこう、

最後はトンデモない事件に発展させたがるのやら。泌尿器科にやってきた奇妙な

患者の症例を泌尿器科医の鮎川が悩みながらも解決する、という日常の謎っぽい

展開に留めておいた方が設定の面白さが生かせると思うんだけどなぁ。こういう

事件にするんだったら、泌尿器科医じゃなくても良くない?って感じちゃうんだよね。

ただ、ラスト、犯人に向けた鮎川の言葉は、医療全体の未来にとっても、とても

大事なもので、心を打たれました。自分の身も顧みずに、犯人の前で患者を助け

ようとした姿勢も。鮎川は、根っからの医者なんだな、と思わされました。こういう

真摯に患者や医療と向き合う人がいてくれれば、日本の医療は大丈夫って思える。

1話目の研修医みたいなヤツは絶対いらないけど(こいつはどの分野に行っても

だめだと思う)。

この回でも、やっぱり師長と忍さんの活躍が素晴らしかったですね。あと、鮎川

の同期の石田も。

師長が言ってた、鮎川押しの女性は、忍さんのことですよねぇ。ちょいちょい

アピールしてましたもんね。可愛い。でも、同期の石田もライバルになりそうな

気配があるような。鮎川鈍感そうだから、どっちからアピールされても気づかなそう

だけどね・・・。

世にも珍しい泌尿器科ミステリ。また新たなジャンルを開拓してきたなぁって

感じ。ニッチな主題だけに、新鮮な面白さがありました。

あと、相変わらずあとがきがシュールで面白かったです(笑)。