ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

加藤シゲアキ「1と0と加藤シゲアキ」(角川書店)

作家生活10周年を記念して、作家自らが編集に加わったスペシャルブック。

様々な作家との競作や、対談、過去の雑誌インタビューなど、多岐に亘る作品集。

加藤さんの作品は、エッセイ一作と小説一作しかまだ読めていないのですが、

その二作読んだだけでも十分作家としての力量は伺えました。本書には過去に

出版された全著作ガイドが挿入されていて、ひとつひとつ読んでみて、どれも

面白そうで読みたくなりました。もともと一作目の『ピンクとグレー』は読みたいと

思っていたのだけれど、それ以外では四作目の短編集『傘をもたない蟻たちは』

が気になりました。折を見て借りてみたいと思います。

加藤さん自らが作家に依頼したという競作のメンバーもなかなか豪華(恩田陸

最果タヒ、玉川こおり、中村文則羽田圭介、深緑野分、堀本裕樹、又吉直樹)。

みんな、加藤さんの作家としての活躍を認めていて、快く引き受けてくれたん

だろうことが伺えました。お題は『渋谷と○○』。同じお題でもそれぞれに違った

渋谷の姿が出て来て、興味深かったです。羽田さんのは渋谷よりも震災エッセイ

みたいな印象が強かったので、若干面食らわされた感じはありましたけどね^^;

競作で一番印象に残ったのは中村文則さんの作品。ラブホテルの間に挟まれている

古びたビジネスホテルが舞台なのだけど、なぜか泊まる人によってサービス料の

値段が違う。ある人は四百円で、ある人は千二百円。なぜなのか?その理由には

びっくり。よくこんな奇抜な設定考えるなぁと感心。しかも殺伐とした作品かと

思いきや、ラスト、予想外に優しい結末で、二重にびっくりさせられた。短い

ながらも非常にクレバーな作品だと思いました。

加藤さんは小説以外にも戯曲の脚本やショートフィルムの脚本・監督など本当に

幅広く活動されているのですね。そちらの脚本もまるまる収録されています。

正直、そちらの内容は文章で読んだ限りはちょっと不条理ものっぽくて、あまり

個人的には好みじゃなかったのですが。映像で観たらまた違った印象かもしれません。

朝井リョウさんとの対談は面白かったです。朝井さんって、ほんと有名作家に

なられてるのに、腰が低くて優しい人ですよねぇ。誰に対しても丁寧で。加藤

さんのこともかなり認めてらっしゃる感じで、お互いにリスペクトされてるのが

伺えて良い対談でしたね。

過去の雑誌インタビューなども載っていて、加藤さんの作家としての想いなど

いろいろ知れて良かったです。もともと、御本人が所属しているNEWSの活動を

もっと広げたいという気持ちから、小説を書き始めたのだとか。少しづつ人数が

減って行ってしまったNEWSへの強い想いも伺い知れました。9人から3人とか、

どんなグループやねん!(なぜか関西弁w)とツッコミ入れたくなりますからねぇ

・・・。それでも、残って活動を続けていて、頑張ってるなぁと応援したくなります。

インタビューなどを読んでいて、加藤さんは作品や文章に対してかなり拘りを

持って書かれているんだなぁとちょっと驚かされました。いや、作家なら当たり前

のことなんですけど。書かれている内容は、もうジャニーズのアイドルではなく、

完全に作家よりだと思いました。まぁ、そもそも、作家として10年、コンスタント

に作品を書き続けられるところがもうすごい。芸能人で作家として活動している人

はちらほらいますけど、加藤さんほどコンスタントに作品が出ている人っていない

のではないかな?1作2作書いて、あとはぱったり出なくなったり(誰とは言わない

がw)。作家としてデビューしてから、芸能活動する人はたくさんいると思うの

ですけどね。以前、鯨統一郎さんの小説で、作家デビューしてから10年

書き続けられる人って、確か1割くらいって書かれていたのがすごく記憶に

残っていて(確認したら、全体の6%だった。もっと少なかった^^;)。

アイドルとしてテレビに出る傍ら、こうやって本を出し続けているってかなり

すごいことだと思います。それで、一作ごとに評価も上がっている訳ですから。

あと、感心したのは、日本語の持つ文字の美しさ(ビジュアル面の)の部分も

意識して文章を書かれているとおっしゃっていたところ。かなり文字自体に

対する拘りも持ちながら書かれているんだなぁと驚かされました。ミステリ的な

ものも書かれているそうですし。そうかと思えばSFとか幻想小説っぽいものにも

チャレンジされているとか。ジャンルを意識することなく、いろんな作品が

書けるというのも、小説家として長く書き続けていられる理由のひとつなのかも

しれませんね。

まぁ、とにかく作家としていろんな才能を感じられる作品ではありました。

未読の作品にもいろいろ挑戦してみたくなりました。

ただ、ひとつ文句を言いたくなったのは、雑誌掲載のインタビューや戯曲や

映画の脚本を収録するのはいいのですが、あまりにも字が小さすぎる!!!

こんな小さい字、読めるかーーーー(おばちゃん世代の心の叫び)。

雑誌インタビューまではギリギリ読めましたが、戯曲と映画の脚本部分は

メガネ外して裸眼で読みましたよ・・・。読者対象は若い子限定ですかっ!?

老眼世代のことも考えて本作ってくれ~~~~・・・・(悲)。