ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

青崎有吾「11文字の檻 青崎有吾短編集成」(創元推理文庫)

アンソロジーなんかでちょいちょい読んでいて気になっていた青崎さんの短編集。

なんとなく面白そうかなと思って借りてみました。

短編集ということで、いろんな媒体で発表された作品を再収録した作品が多かった

ですね。現に、私もアンソロジーで読んでいた作品が二作入っていました。長中短

取り混ぜて、計8作が収録されています。

ミステリーの作家さんだと思ってましたが、収録されたものは、ミステリーじゃ

ないものも結構ありましたね。SFっぽいのとか既存漫画の二次創作とか。こんな

昨日も書かれるんだな~とちょっと驚きました。でも、やっぱり面白く読めたのは

ミステリよりの作品だったかな。漫画のパロディとか、あとがきの著者解説で

知らされるまで全然わからず、正直いまいち何が書きたいのかわからなくて戸惑って

しまう作品だったので。まぁ、いろんなタイプの作品が読めたって意味では

それなりに楽しめたのですけれどね。

 

では、軽く各作品の感想を。

『加速してゆく』

JR福知山線のあの痛ましい脱線事故を舞台にして書かれた作品。あの事故の痛ましさ

は、今でも脳裏に生々しく思い出すことができます。そうした事故に間接的に

ですが、関わってしまった地方紙のカメラマンと、高校生の少年の話。少年があの日

その場にいた事情にはやりきれない気持ちになりました。多くの犠牲者が出た事故

のニュースを見て、どんな気持ちになったのかと思うと・・・。こういう重大事故を

小説の題材に使うというのは、作者も勇気が要ることなんじゃないかと思いました。

 

『噤ケ森の硝子屋敷』

これ、読んでる時に妙~に既視感あるなぁと思っていたら、案の定、アンソロジー

既読でした。登場人物とかへんてこな名前の探偵とか、一切覚えてなかったんだ

けど、この硝子で出来ている奇抜なスケスケ屋敷と、ラストの窓枠のトリックは

ばっちり覚えていました。トリック自体は、そんなバカな、とは思いましたけど

ね^^;

 

『前髪は空を向いている』

先述したように、これが『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』という

コミックスのノベライズアンソロジー企画の為に書かれたものだそう。この

長ったらしいタイトルのマンガ自体は、読んだことはないものの、印象的な

タイトルなので知ってはいました。陰キャものっぽいってくらいの知識ですが。

原点作品を読んでないので、なんか、キャラの説明とか人物関係とか大幅に

端折って書かれている為、何が書きたいのか正直よくわからなかった。女子高生

たちがわちゃわちゃやってるなぁ、ってくらいの感想しか持てなかった。原作

読んでる人は楽しく読めるのかもしれないです。

 

『your name』

超短編!大どんでん返し』というショートショートの大どんでん返しばかりを

集めたアンソロジーに寄稿されたものだそう。

3ページでどんでん返しの作品を書くのは大変だろうなぁと思いますねぇ。

私はパソコンとかスマホとか、こういう機能あんまり使わないんだけど、便利な

機能ゆえに使ってしまった犯人が足元を掬われたってお話ですね。

 

『飽くまで』

何にでも飽きっぽい男は、手に入れた途端に手放したくなってしまう。飼い猫を

二ヶ月で、収集していた古いレコードは15枚目で飽きて手放した。挙げ句の果て

には、最高のパートナーだと思った、聡明で料理が得意な妻でさえ、結婚1年で

飽きが来てしまい・・・。こんなヤツは、何も手に入れない方が世のため人のため

だと思いましたね。

 

『クレープまでは終わらせない』

青崎さんの作品の表紙絵を良く手掛けてらっしゃる田中寛崇氏の画集の為に

書かれた作品だそう。これも女子高生たちがわちゃわちゃしてるなーってくらいの

感想しか持てなかった^^;なんかSFっぽいけど状況よくわからんって感じだった。

巨大ロボの清掃するのがなぜ女子高生なのか・・・背景が謎だった。

 

『恋澤姉妹』

これは、百合もののアンソロジーで既読でした。読んでからそんなに経ってないから、

さすがに覚えてましたね。かなり変わった設定だったし。平山(夢明)さんっぽい

設定だなぁと面食らわされた覚えがありました。百合ものってテーマで、こういう

設定持って来るとは、なかなか攻めてるなぁ、と。途中なかなかのバイオレンス展開

が続きますが、読み終えてみると、ちゃんと百合設定の純愛ものっていうね。

 

『11文字の檻』

これだけ書き下ろし。作品タイトルにするくらいなので、一番長く、なかなかの

力作だと思います。途中中だるみする感否めませんけど。閉じ込められた施設から

解放される為には、政府が指定する11文字のパスワードを当てるしかない。

こんなの当てられるかい!とツッコミたくなりましたが、主人公は少しづつ解明

への糸口を見つけて行く。ツッコミどころ満載の設定ですが、ラストには驚かされ

たな。しかし、当該パスワードの文言、なるほどと思える反面、これが政府の

利益になる言葉なのかな??っていう疑問も・・・。利益っていうより、戒め

っていう方が正しいような。中学生が当てられたっていうのはなるほどねぇと

思いましたね。絶対中学生なら知ってる言葉ですもんね。

ラストは何かスカッとしたな。抑圧された人間たちの逆襲って感じで。同じ立場

の人間同士の絆も感じられて良かったです。