ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

東野圭吾「ブラック・ショーマンと覚醒する女たち」(光文社)

東野さん最新作。元マジシャンのバーテンと建築士である彼の姪がタッグを

組んで活躍する『ブラック・ショーマンと名もなき街の殺人』の続編。元マジシャン

の武史のキャラは結構気に入っていて、また会えるといいなぁと思っていたので、

続編が読めて嬉しかったです。

前作は長編でしたが、今回は短編集。しかも、前の作品に出て来た脇役キャラが

その後の作品でも登場するケースが多く、全体的に繋がりのある連作短編形式

になっています。東野さんには珍しいタイプの作品集でしたね。

それぞれの作品で、メインに登場する脇役キャラがみんな女性というのも珍しいかな。

東野さんの女性キャラって、ちょっとクセのあるタイプが多い傾向にあると思うん

ですが、今回登場する女性キャラたちも、それぞれにひとクセもふたクセもある

タイプばかりでしたね。

冒頭の、プロローグ的な短編に出て来た、高学歴の男を品定めする女性がラストの

作品で再登場するのですが、ラストで思わぬ展開になって驚かされました。まぁ、

いろいろとツッコミたい部分も多かった気もしますが・・・^^;いくら才能が

あったからって、あんな大掛かりな仕掛けをしてまで、◯◯◯◯(カタカナ四文字)

なんてするものかなぁ・・・っていうね。武史も一枚からんでるし。いつも冷静で、

人を食ったような武史が、珍しく動揺するシーンが出て来るから意外だったの

だけれどね。こういうことだったのか、と腑に落ちたところはありましたけれどね。

二作目の『リノベの女』は、アンソロジーで既読でしたが、上松和美の正体とか

すっかり忘れていたので、読み返せて良かったです。そして、この上松和美が

五話目の『続・リノベの女』で再登場。最初の作品では書ききれなかった部分を

補うような作品でしたね。

あの状態のまま、バレずに一生暮らして行けるものなのかなぁ、とその後の彼女が

気になっていたので。まぁ、案の定な展開になりましたね。でも、認知症の母親

との再会シーンは心にぐっと来るものがありました。どれだけ憎んでいても、

やっぱり、根底では血の繋がった親子なんだな、と思えました。

三話目のマボロシの女』は、サックス奏者の恋人を事故で亡くした女性の話。

事故に遭った当日、恋人は若い女性と一緒だったという。その女性とは誰なのか。

友人のためを思って血を流そうとした、もうひとりの女性の行動力にぐっと

来ましたね。

四話目の『相続人を宿す女』は、真世の元に大規模なリフォームを申し込んだ

夫婦が、突然キャンセルを申し入れて来た。急死した息子の元妻が、妊娠しており、

息子の財産の相続権がお腹の子供にあると告げて来たという。リフォームしようと

していた部屋は亡き息子の名義になっており、元妻の妊娠が事実ならば、相続権

は確かにお腹の子供にあるからだ。しかし、元妻は現在付き合っている男性がいる

らしい。お腹の子は本当に夫妻の息子の子供なのか――。

始めは、元妻の言動が図々しすぎてムカムカしっぱなしだったんですが・・・物語

は意外な方向に進んで行くことになります。東野さんらしい、現代医療を絡めた

良作だと思いますね。やりきれない作品でもありましたけれど。背景にあるものは、

優しい思いやりだったことがわかり、予想外に感動させられてしまいました。

 

前作では、武史の元マジシャンという設定がいまひとつ生かされてないという

ような印象だったのですが、本作では、マジシャンとしての彼の活躍も読むことが

出来たので満足です。

人を見る目もあるし(男性の品定めも得意だしw)、人を騙すのもお手の物だし

(一番やられているのは騙されやすい真世でしょうが^^;)、やはり改めて、

とても切れ者だと感じさせられる作品集でした。面白かったです。