ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

柚木麻子「あいにくあんたのためじゃない」(新潮社)

柚木さん最新作。六作からなる短編集。かなり個性的な登場人物が登場して、

強烈なお話が多かったな。読書メーターの他の方の感想ちらっと読んだら、みなさん

スカッとしたってご感想が多かったみたいなんですが・・・うーむ。個人的には、

あんまりスカッとしたって感じじゃなかったな。どちらかというと、主人公たちに

共感できないことがほとんどで、その言動にモヤッとするって話の方が多かった。

なんか、最近の柚木作品は、どうも自分との感性の違いを感じさせられることが

多い気がする。

本書は、タイトルからしてちょっと攻撃的な雰囲気が漂ってますね。まぁ、世の中

には理不尽なことが多くて、それになんとか立ち向かって行こうっていうメッセージ

的な作品なんだろうけど・・・。

一作目の、『めんや 評論家おことわり』は、人気ラーメンブロガーに、ブログで

ひどいことを書かれた人々が一矢報いる話。これは、確かにやられた方にしたら

スカッとするお話だとは思う。言論の自由だかなんだかを掲げて、言いたい放題

やりたい放題されたら、やられる方はたまったものじゃない。でも、なんか、

復讐の仕方がちょっと陰湿というか。そもそも、この評論家の被害者がみんな、

同じラーメン店に同じ日に偶然居合わせるって、さすがにちょっと都合良すぎ

ないか?ともツッコミたくなりましたし。とはいえ、評論家のやったことは

許しがたい暴挙だったし、いい気味、って気持ちにもなりましたけどね。

二話目の『BAKESHOP MIREY'S』は、焼き鳥屋の若いアルバイトの女の子の夢を

応援したいキャリアウーマンの秀実の話。いや、これはもう、理解の範疇を超える

話だった。なんで、こんな上辺だけの夢の話に、高い六万もするオーブン買って

あげられるの?キャバ嬢とかホストに入れあげる客ならまだわかるんだけどさ。

未怜の薄っぺらい夢の話を、あれだけ真摯に受け止められる秀実は、究極のお人好し

なのか、単なる世間知らずのバカのどちらかでは・・・。なんか、柚木さんって、

こういう、あしながおじさん的なお話がお好きですよね。この感覚が、私には

皆無なので、いつもちょっと理解に苦しむんだよね。

三話目のトリアージ 2020』は、コロナ禍に妊婦になり、孤独感を抱える

主人公が、SNSで知り合ったネット上の友達の母親と親しくなるお話。あのコロナ禍

の孤独の中、ひとりで子供を産まなきゃいけない状況になったとしたら、こういう

存在はありがたかったでしょうね。主人公がSNSでやり取りしていた『よこちん』

とその母親の正体には何かあると思いましたが・・・こういう事情だったのか、と

腑に落ちるものがありました。

四話目の『パティオ8』は、緊急事態宣言が出される中、外出できない平屋型

マンションの主婦たちが、中庭で子供を遊ばせるなと無理を言ってきた住人の男に

対して、あれこれと対抗する話。このマンションの入居条件が『中庭で子ども

が騒いでいても気にしないこと』だったのだとしたら、どう考えても無理を言って

来た男の言い分がおかしいとは思うのですが・・・。商談するなら、どっかの

コワーキングスペースとか行けばいいのにねぇ。しかし、他人の商談相手をこんな

簡単に特定出来るものかなぁ。しかも、その商談をいち家庭の主婦たちが乗っ取る

とか、どう考えても設定に無理があるだろう、とツッコミたくなりました^^;

五話目の『商店街マダムショップは何故潰れないのか?』は、タイトル通り、

商店街に昔からある婦人雑貨店は、なぜ潰れないのか、という永遠の謎に迫るお話。

確かに、いつ通りがかってもお客がいたことがないのに、潰れない謎の個人商店

ってありますよね。一体誰が買うんだろう、どうやってお店を維持してるんだろう、

と思ってました。まぁ、本書に出て来たお店は、想像以上に裏で何か秘密があり

そうでしたが・・・結局、その秘密が何なのかはよくわからないままで煙に

巻かれた気分だった。秘密は秘密のまま、知らない方がいいってことなんですかね。

六話目の『スター誕生』は、動画サイトでバズっている、ワンオペ育児主婦を巡る

お話。往年の元中年アイドルが、低迷気味の自身の情報番組の復活をかけて、

話題性のある素人のワンオペ育児主婦を当てにする、というのが何とも情けない。

自分自身で人気が出るよう精進しなさいよ、と言いたくなりました。そもそも、

動画を削除しろってお願いしたにもかかわらず、勝手に顔出しさせた投稿主に

一番問題があると思いましたけどね。プライバシーの侵害で訴えればいいのになー

と思いました(まぁ、ワンオペで忙しくて、そんな面倒には関わりたくないって

のが本音だろうけども)。