ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

原田ひ香「定食屋「雑」」(双葉社)

人気の原田さん。愛想のない店主が営む定食屋『雑』を舞台にした、ハートフル小説。

これ、第一話は『ほろよい読書』というアンソロジーに収録されていたらしい。

あれ、読んだ覚えあるけど、全然覚えてないぞ・・・と思って自分の記事調べて

みたら、この『ほろよい読書』は二冊出ていて、私が読んだのは、原田さんの

作品が載っていない方の第二弾(『ほろよい読書 おかわり』)でした。どうりで

覚えてない筈だ(笑)。

主人公は、夫の健太郎から突然離婚を言い出された三上沙也加。料理も掃除も

きちんとやって来たつもりだったし、夫婦仲は悪くないと思っていただけに、

寝耳に水の思いだった。夫は、料理はビールと共に楽しみたいというが、

沙也加はお酒と料理を一緒に食べるなんてありえない、という考えの持ち主だった。

そんな夫が最近通っているという定食屋があると聞き、そこに離婚の理由のヒント

があるかもしれないと思い、思い切って行ってみることに。しかし、夫が通って

いると言った定食屋『雑』は、無愛想な老女が一人で切り盛りしていて、料理も

接客もすべてが名前の通り「雑」だった。あまったるいだけの大味な料理に、なぜ

自分の繊細な味付けの料理が負けたのか――夫が出て行ったことで収入の減った

沙也加は、そこに貼ってあった『従業員募集』の張り紙をみて、そこでアルバイト

をしてみることに――。

夫から突然離婚を言い出された沙也加のことは気の毒だったけど、潔癖主義で

薄味信仰の沙也加の言動には、確かに夫がうんざりする要素がたくさんあるなぁ

と、最初は夫側に同情的でした。お酒と食事を一緒に摂れないって、飲み会とか

絶対行けないですよね。ご飯はご飯でって言われてもさ。だいたい、男の人って

夜は家で晩酌する人が多いんじゃない?沙也加の主張によると、ご飯はご飯で

しっかり食べて、その後でナッツとか軽食で晩酌してほしいらしい。まぁ、そういう

タイプの人もいるかもしれないけど・・・だいたいは、ご飯と一緒にお酒も

楽しむのでは?自分がそうだからって、夫にもそれを強要するのはどうなんだろう。

そりゃ、夫の方も嫌になるでしょう、と思いました。それ以外にも、ちょいちょい

沙也加の言動にはトゲがあって、最初はあんまり好感持てなかったです。でも、

『雑』で働くようになって、少しづつ沙也加の潔癖で頑なな性格も軟化して行った

ので、後半になるにつれて、印象も変わって行きました。夫の健太郎と離婚の話に

なる度に、気弱になって打ちのめされる性格には、少々辟易しましたが。なんで、

あんな勝手な言い分を鵜呑みにしてしまうのか。途中から、夫側の本当の離婚理由

も仄めかされて行くし、夫の沙也加に対する態度があまりにも酷いので、だんだん

夫の方にイライラムカムカするようになりました。あんなに酷い態度取られている

のに、まだやり直したいとゴネる沙也加にもイライラしましたけどね。あんな男、

こっちからさよならしてやれ!って言いたくなりました。

店主のぞうさんに関しては、想像とはちょっと違った内面のひとでしたね。他人に

対して無愛想になってしまった理由には、胸が痛みました。でも、沙也加と接する

うちに、少しづつぞうさんの内面にも変化が訪れたことが嬉しかったです。いい

意味で、他人の感情に鈍感な沙也加の性格は、気を使わずに接することが出来て、

ぞうさんとも合うのだろうな、と思いました。

沙也加は鈍感だけど、他人に対して無関心な訳ではないですしね。ぞうさんに対しても

壁を作らずに接するから、ぞうさんの態度も軟化して行ったのかな、と思いました。

二人の師弟関係がなかなか良かったですね。

ラスト一話では、コロナ禍が始まり、定食屋「雑」にも様々な困難が降りかかります。

コロナ始まったばかりの頃って、そういえば、飲食業の人たちにこんな嫌がらせが

横行していたんだったなぁ、と苦々しく思い返しました。あの頃の人々には、

心の余裕がなかったから、仕方がないのかもしれないけれど・・・心無い暴言

を浴びせられたいろんな業界の人々は、きっと今でも心に傷を受けていると思う。

やっている人は正義だと思っているから、始末に終えないんですよね・・・。

本当に、コロナ禍のあの時期は異常だったと、思い返すと今でも心がヒヤリとします。

定食屋「雑」がどうなってしまうのか心配になりましたが・・・なんとか乗り越え

られてほっとしました。形は違ってしまったけれど、こうして常連客が好きな味

が残って行って良かったと思いました。

ぞうさんの最後の沙也加への提案も粋でしたね。なんだかんだいって、ぞうさん

沙也加のことが可愛くて仕方ないんでしょうね。二人の関係がこれからも

続いて行くといいな、と思いました。

ちょっと、思っていたのとは違う内容でしたけど、読みやすいし、美味しそうな

食べ物もちょいちょい登場するし、概ね楽しく読めました。沙也加の離婚問題

の部分だけは、イライラしまくりでしたけどね^^;

ぞうさんの料理は、手順とか見てると、全然雑ではないなぁと思いましたね。

確かに、味付けの部分は雑なところもあるのかもしれませんが^^;ちゃんと、

美味しいものを作ってる。沙也加の提案を受け入れる柔軟さがあるところも

いい料理人だな、と思いました。長く元気でいてほしいですね。