ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

真門浩平「ぼくらは回収しない」(東京創元社)

ミステリ・フロンティアからの刊行だったので、気になって借りてみました。連作

短編集かと思いきや、純粋なノンシリーズの短編集でした。出来には少しばらつき

があったようにも思うけど、概ね楽しめたかな。

作者は東大出身で、現在も大学院在学中だそうな。すご。ラストに収録されている

『ルナティック・レトリーバー』は、第十九回ミステリーズ!新人賞を受賞した

作品だとか。確かに、トリッキーな作品だし、青春ミステリとしてもなかなか

だとは思いましたが。他にも、もうひとつ新人賞を受賞してるそうで(どれかは

わからない)、新人賞W受賞の話題の新人って触れ込みらしい。知らなかった~。

個人的には、一話目に収録されている『街頭インタビュー』が良かった。人間

観察が趣味で、並外れた観察眼を持つ主人公が、同じクラスの女子生徒の悩みを

解決するお話・・・なんだけど、悩みごとが解決した後の展開にあっと言わされ

ました。メディアの切り取りの酷さにも辟易したけど、主人公桐人が得意がって

やっていたことの真実が判明して、世界が反転するところが見事だと思いました。

桐人がせっかく悩みを解決してあげたのに、喜ぶどころか冷たい反応を示す相手の

女子生徒にイラっとしたのだけど・・・その理由を知ってすべてが腑に落ちました。

ほろ苦い青春ミステリとして秀逸な一作だと思いましたね。今のSNS世代の若い子

たちに読んで欲しいかな。

第二話の『カエル殺し』は、長年泣かず飛ばずだったお笑いの先輩ピン芸人が、

やっとお笑いの大会で優勝した。しかし、後輩たちが企画した祝勝会の日に何者

かに殺害されてしまう。祝勝会に出席した後輩芸人たちの間に犯人がいると

思われるのだが・・・というお話。

前段階で出て来た『カエル化現象』が最後に効いて来る作品。こんな動機で殺されて

しまった被害者が可哀想でなりませんでしたね。余計なお世話にもほどがある。

三話目の追想の家』は、亡くなった祖父の遺品整理に来た孫たちが、十三年前

から増え続けたはずの祖父の本が消えている謎を解き明かすお話。これはいまいち

納得出来なかったな。主人公の内面描写にちょこちょこ意味深な書き方がしてある

から、てっきり最後に何らかの叙述トリックが明かされるって展開なのかと身構え

ていたら、全然そうじゃなかったのでちょっと肩透かしだった。深読みしすぎて

いたらしい・・・恥^^;

四話目の『速水士郎を追いかけて』は、敏感過ぎて孤立しがちなクラスメイトの

速水士郎と、中学時代の恩義を感じて彼を気に掛ける主人公の一ノ瀬が、放課後に

サッカー部の部室が荒らされていた謎に挑む話。

速水は、一時本などで話題になったいわゆる『繊細さん』ってやつですね。マイノ

リティなこういうタイプの人が今は多いのかな。しかし、こういうタイプは、

一ノ瀬のようなおせっかいされるのが一番嫌なんじゃないのかなぁ。放っといて

欲しいような。まぁ、ラストの感じからすると、嬉しい気持ちもあるのかなと

思えてほっとしたけど。多分、一ノ瀬が冷やかしとかではなく、本気で速水と

友達になりたいと思ってるのが伝わったからじゃないかな、とも思う。二人が

今後も良い友情関係でいられるといいな。

五話目の『ルナティック・レトリーバー』は、数十年に一度の日食の日に、大学の

寮内にある物置小屋の中で女子生徒が亡くなっているのが発見された。目張り

された密室状態の現場から当初は自殺と考えられたが、寮生たちは彼女の性格から

自殺は考えられないと事件の考察を始めるが――というお話。トリックの説明は

少し分かりづらかったなぁ。映像で観ると納得できるんだろうけど。図も挿入

されているのだけどね。

しかし、動機が酷かったなー。身勝手過ぎませんか。被害者の性格も相当酷そう

だったけど、こんな理由で理不尽に殺されていいはずはないでしょう。まぁ、

この酷い動機だからこそ、その後の名言が引き出される訳ですけど。大橋さん、

一番ちゃらくて適当そうで、一番鋭く頭の切れる人だと思いましたね。本書

(この作品ではなく)のタイトルの意味がわかる犯人へのセリフが秀逸でした。

人生は回収出来ない伏線の繰り返し。

ほんとに、まったくその通りだと思います。人生は失敗や無駄なことだらけ。

それでも、その無駄な経験を積み重ねて行くことで、それが糧になって、

成長していけるのもまた人間なんだと思う。主人公の後日談も良かったですね。

 

青春とミステリを上手く融和させて、毒を交えつつも最後は爽やかに読ませてくれる

作品だったと思う。

今後注目したい新人の一人になったかも。