ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

今村昌弘「明智恭介の奔走」(東京創元社)

出た年の各ミステリ賞をのきなみ総なめにした『屍人荘の殺人』の前日譚となる

スピンオフ作品。あのシリーズの主人公(語り手)の葉村君が所属する神紅大学

ミステリ愛好会の唯一の先輩・明智恭介が活躍する連作短編集です。5作が収録

されています。

今回改めて明智さんの活躍を読んで、やっぱり素晴らしくキャラが立っている人

だなぁと思わされました。明智さんの活躍が読めるだけでも、このシリーズのファン

なら感涙ものな筈。もちろん、私もそうでした。明智さんが元気で楽しそうにミステリ

の話を葉村君にしているだけで、感無量って感情が沸き起こってしまい・・・。

いやもう、改めて、『屍人荘~』で、なぜ作者は・・・と思ってしまいますよ。いや、

多分、作者ご自身も、予想外に人気のキャラクターになっちゃったって感じなんじゃ

ないのかなぁ。今からでも、あの出来事は夢だったってオチにならないかなって

思っちゃうんですが(基本的に夢オチとか大嫌いなんだけども!)。

いや、熱くなっちゃってすみません。だって、明智さんのキャラ好きなんだもん。

まぁ、葉村君にしてみれば、迷惑な先輩なのは間違いないだろうけど(苦笑)。

今回の作品でも、いろいろやらかしてくれてます。でも、愛すべきやらかしです。

明智さんのミステリ愛は随所で感じられました。葉村君も、なんだかんだでミステリ

を愛してやまない、このはた迷惑な先輩のことが、ほっとけなくてお世話を焼いて

しまうのでしょうね。

日常の謎的なものばかりですが、それぞれに毛色の違ったタイプの作品で、どれも

楽しく読めました。大学生ならではの事件って感じで、軽く読めるところも良い

ですね。何より、やっぱり明智さんと葉村君のコンビがとても良かったです。

ミステリ愛好会には、やっぱり明智さんが必要なんだよね・・・(しんみり)。

ちらっと、ヒルコさんらしき美少女も出て来ましたね。名前は出て来なかった

けどね。

 

では、各作品の感想を。

『最初でも最後でもない事件』

サークル棟内で窃盗犯が捕まった。犯人は、コスプレ研究部の部室内で気絶して

いるのを警備員が発見し、警察に通報して捕まった。犯人は窃盗を働いた後で

何者かに襲われ、気絶していたらしい。窃盗犯が一番の被害者であるという、

奇妙なこの事件の謎を解いて欲しいとコスプレ研究部の部員に頼まれた明智は、

葉村を伴って事件の調査に乗り出すのだが。

窃盗犯を気絶させた人物の動機は、こういう部ならいかにもあり得そうだと思い

ましたね。窃盗犯よりもよっぽど悪質だと思いました。葛形君のキャラはなかなか

可愛らしくて気に入りましたね。

 

『とある日常の謎について』

一杯飲み屋で、古びた商店街のボロビルがなぜか二千万で売れたらしいと常連客

たちが噂していた。その場に立ち会った明智は、常連客たちの話が気になり、後日

常連客の一人で商店街で喫茶店を営む久夫の元を訪れるのだが。

スペースインベーダーにこんなところで出会うとは(笑)。でも、『五十円玉

二十枚の謎』に出会えたのはそれ以上に懐かしかった。五十円玉二十枚を毎週

千円に両替してもらうって、すごいお店としては迷惑じゃないのかなぁ。今は小銭の

両替にもお金かかるって言っても、百円とか十円ならまだしも、五十円だし・・・。

月イチくらいならまだしも、毎週だし。いくら常連っていってもねぇ。相手はどう

思っていたのやら。

 

『泥酔肌着引き裂き事件』

飲み会で泥酔した翌日、目を覚ました明智は、なぜか不可解な状況に置かれていた。

玄関は泥棒でも入ったかのように散らかっていて、そのそばには丁寧に引き裂かれた

パンツが落ちていた。そのパンツは、昨日明智が履いていたものだが、なぜか、

パンツを脱いでズボンだけを履いた状態になっていた。昨夜のことを何も覚えて

いない明智は、動揺して後輩の葉村を呼び出した。昨夜、泥酔した明智を部屋まで

送ってくれたのは葉村らしいのだが。一体、昨夜明智に何があったのか。

これは面白かったですね。明智さんの間抜けな一面が見れたのも嬉しかったですし

(笑)。切り裂かれたパンツの理由は、なるほどね~!って感じでした。葉村君

の鋭さに感心。しかし、パンツって素手でそんなにきれいに避けるものなのかな?

素材にもよるでしょうが・・・。葉村君はなんだかんだでいい後輩よね(笑)。

 

『宗教学試験問題漏洩事件』

宗教学の柳教授の研究室内で、金庫に入っていた宗教学試験の問題が入ったUSB

メモリが盗まれた。盗まれたのは、講義の代返をしたというペナルティで、二人の

生徒が補講を受けている最中だった。犯人は二人のうちのどちらかなのか――。

犯人のトリックは、オーソドックスな手法ながらよく出来ていると思いましたね。

巧妙なミスリードからの真犯人をあぶり出す過程は読みごたえがありました。犯人の

動機はあまりにも稚拙ですね。こんな立場の人間が、こういうことをしたという

のが許しがたい。何の罪もない人間に罪をなすりつけようとしたことも卑劣過ぎて

ドン引きでした。明智さんたちが犯人をあぶり出してくれてよかったですよ。

 

『手紙ばら巻きハイツ事件』

<ハイツ徳呂>の管理人から、ハイツの複数の住人に不審な手紙が届いて困って

いるから、犯人を捕まえて欲しい、という依頼が田沼探偵事務所の元に持ち込まれた。

所長の田沼は、神紅大学一年の明智というアルバイトの青年を連れて、現場に調査

に赴くのだが――。

初々しい一年の明智さん。まだ葉村君も入学していない頃の出来事。この頃から、

明智さんは無茶ばっかりしてたんですねぇ。こんなに危ない目に遭っても、全然

凝りてないのがわかりました^^;いや、こういう出来事があったからこそ、更に

ミステリ熱が高まったのかも?ラストの田沼氏のアドバイスは実に的を射た意見

でしたね。その後、明智さんに葉村君が出会えてよかったですよ。葉村君は、

見事に明智さんのストッパー役を担ってくれる逸材でしたからね。

 

帯のあらすじを読むと、これはシリーズ第一作らしい。ということは、今後も

明智さんの活躍が読めるということですね。これは嬉しい情報です。

第二弾も楽しみです。