ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

古矢永塔子「夜しか泳げなかった」(幻冬舎)

ちょっと前に読んだ『ずっとそこにいるつもり?』がなかなか良かったので、新着

図書に入っていた本書も借りてみました。

高校教師の卯之原朔也の学校に、今話題の高校生作家・ルリツグミこと妻鳥透羽が

転校生としてやってきた。妻鳥が書いた『君と、青宙遊泳』は、『Muses』という

創作者向けのSNSサイトから書籍化され、たちまち話題になり、ベストセラーに

なった。作者のルリツグミは、本名・性別・年齢・出身地その他すべて非公表の

謎の覆面作家だった。朔也は、妻鳥が転校してくる前に、偶然その小説を読み、

愕然とした。なぜなら、その小説の内容は、朔也がかつて、高校時代の同級生・

日邑千陽と過ごした七年前の夏の出来事と酷似していたからだ。誰も知らない、

二人だけの体験だった筈なのに、なぜルリツグミはあの夏の出来事を知っているのか。

転校してきた妻鳥は、そんな朔也の心中も知らずに、なぜかやたらと朔也に懐いて

来た。一体、この少年の目的な何なのか――。

終始、朔也の内向きで陰々鬱々とした内面描写が続くので、読んでいて何度も

うんざりしました。彼の生い立ちとか日邑さんとの体験とかその他を考えれば、

そういう性格になっちゃうのも仕方がないとは思うのですが・・・。なんか、常に

心の中に怒りとか嫌悪とかのマイナスの感情があるから、読んでいて全然楽しく

なかったし、こっちまでイライラして来ました。まぁ、こうやって彼の心情が

伝わって来るって意味では、やはり描写力のある作家さんとも言えるのかもしれ

ませんが。

それに、ルリツグミの大ヒット小説『君と、青宙遊泳』の内容が、どうも『君の

膵臓を食べたい』の二番煎じみたいなストーリーなのがね。なんか、引っかかって

しまって。どこぞで読んだようなストーリーだよなぁ、みたいな。作中作なんだ

けどさ。この手の病気関連のお涙頂戴エピソードの小説がどうにも苦手なもので。

あれのヒロインの最後も、日邑さんと似たような結末だったしね。◯因、病気

じゃないのかよ、みたいなね。小説(作中作)のオチとは違うけどもね。

彼女が最後に行こうとしていた場所とかその理由も、まぁ、だいたい想像通りだった

し。古矢永さんだから、最後にもっと何かしらのどんでん返し的な驚きがあったり

するのかなーとちょっと期待したんだけど、特にそれもなく。なんか、淡々と

終わったって感じで、特に感情を揺さぶられる何かがあるわけでもなかったのが

残念だった。

あと、いくら高校生作家でデビュー作がベストセラーになったからって、編集者

があんなにつきっきりでお世話してわがままも聞いてもらえるって、あんまり

現実的じゃないなぁと思いましたね。ある程度コンスタントに売れる作品出してる

作家さんならともかく。二作目はボツくらってばかりの駆け出しなのに。その

編集者の犬飼さんのキャラも、朔也に対して図々しくてあんまり好きになれなかった。

最後は振り回されて可哀想ではありましたけどね。

全体的な暗いトーンに気が滅入るばかりの読書だった。ちょっと、今回の作品は

私には刺さらなかったな。