ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

「時ひらく」(文春文庫)

寄稿作家がとても豪華な、創業350年の三越デパートをテーマにした豪華

アンソロジー。よく、これだけの作家を集めたなぁっていう錚々たるメンバー。

阿川さんだけちょっと異色な感じがしちゃいましたが。東野さんだけがガリレオ

シリーズの新作となっているため、少し三越の存在感が薄かったように思いましたが、

ファンとしては嬉しい一作でしたね。それぞれに違った趣向で三越を描いていて、

興味深かったです。ファンタジックな作品がほとんど(ガリレオ以外は全部そう

かな?阿川さんのもか)だったのが面白かった。創業350年って、すごい数字

ですよね。100年超えたら老舗って言われるんだろうけど、✕3倍以上ですもんね。なかなか

ないんじゃない?それだけ伝統があったら、何か不思議な存在が息づいていても

不思議じゃないのかも。いろんな逸話もあったりして、いろんな想像が膨らませ

やすそうではありますね。人に見られずにライオン像に跨って願い事をすると叶う

っていう言い伝えのことは全然知らなかった。実際書いてあるのかな?あの人通り

の多さの中で、人に見られずにミッションをやり遂げるのは相当難しそうでは

ありますけどね^^;壁の大理石の中にアンモナイトがあるって話は、道尾さんの

作品でも読んだことあったな。三越のデパートではなかったかもしれないけど。

大理石あるあるみたいですよね。

表紙は、三越の包装紙(『華ひらく』という名前がついているらしい。初めて

知った!)をモチーフにしているそう。そうそう、こんな包装紙だった~。

ただ、私自身は三越デパートって、ほとんど利用したことがないかも。若い頃は

新宿の三越とかで買い物したこともあったけど・・・。そもそも、デパートで

買い物自体、あんまりしないもんなー。私の住む街の周辺にはないですしねぇ。

日本橋三越は、むかーしに行ったことはあると思うけど、ライオンがいた、

くらいしか記憶にない^^;豪華なエレベーターとか、天女像とか、屋上とか、

今度もし、行く機会があったら、いろいろ探検してみたいですね。

 

では、各作品の感想を。

 

辻村深月『思い出エレベーター』

祖父が亡くなった直後に、親に連れられて三越にやって来た大地は、親とはぐれて

迷子になってしまう。エレベーターに乗って降りたあと、不安にかられる大地は

知らない人に話しかけられるのだが――。

まさに、過去と現在を繋ぐエレベーターだったという訳ですね。大好きなおじいちゃん

にもう会えないという切なさが伝わって来ました。『時ひらく』という主題に一番

相応しい内容だったかも。

 

伊坂幸太郎『Have a nice day!』

高校受験の重圧で押しつぶされそうになっている時、同級生のエンドウさんから、

仙台駅の三越のライオンの背に、人に見られずに跨ると夢が叶う、という噂話を

教えてもらう。二人は、夜中に家を抜け出して、チャレンジしてみることに――。

伊坂さんらしい、不穏さと愉快さが上手く同居している不思議な作品でしたね。

母親のマルチ商法のせいで肩身が狭い思いをしているエンドウさんのキャラクター

が良かった。いろいろツッコミ所も満載ではあるけど、最後には爽快に読み終え

られるところが、やっぱり好きだなぁと思いました。

 

阿川佐和子『雨あがりに』

母と三越の前で久しぶりに待ち合わせた。母は、実の母ではない。私と妹が小さい頃、

父と再婚したいわゆる義理の母だ。私の母への思いは複雑だった。母と買い物を

して昼食を摂っているうちに、リモート会議の時間になってしまった。私は、母と

別れて屋上でリモート会議を終えると、母とはぐれてしまった。館内放送で母を

呼びだしてもらおうとするのだが――。

館内放送しようとしたら、やり返されるところが痛快。お母さん、グッジョブって

感じでしたね。いいお母さんですね。

 

恩田陸『アニバーサリー』

ほぼ会話だけで構成されています。あらすじ書くとネタバレしちゃうんで割愛。

愛すべき三越の住人たちの会話にほっこり。

 

柚木麻子『七階から愛をこめて』

友人のアンナと、彼女のいとこへのプレゼントを探しに日本橋三越にやってきた。

館内にいると、ふいに上の階から古いオルガンの自動演奏が聴こえて来た。それから、

不思議な感覚をところどころで覚えるように。このデパートは何かがおかしい――。

過去と現在を繋ぐ何かがこのデパートにはあるのでしょうね。女性の活躍をテーマに

するところが、柚木さんらしい取り上げ方だなと思いました。

 

東野圭吾『重命る(かさなる)』

隅田川で、会社経営者の男が水死体となって発見された。男は癌を患っており、

死ぬ前にお世話になった人たちへのあいさつ回りをするといって、全国を旅して

帰って来た後で殺されたらしい。そして、男は、旅の最後で日本橋のデパートで

菓子を買っていたという。日本橋に用事があったついでだったというが、一体

何の用だったのか――。

これは、似たようなお話が加賀シリーズにもありましたね。日本橋のあそこに

用事があったという時点で、なんとなく予想がつきました。

湯川先生が教授に、草薙刑事が警部になっているのが感慨深いものがありますね。

偉くなったらなったで、二人とも大変そうですが、関係が変わらず続いているのが

嬉しいですね。この一作読めただけでも、読んだ価値があったかな。