直木賞受賞作『八月の御所グラウンド』に続く、京都を舞台にした歴史ファンタジー
第二弾。内容は全く繋がってませんが、同じ系統の作品って感じですね。現代(
作中では少し前の時代設定(昭和くらい?)になっているようですが)の京都と、
実在の歴史上の人物が交錯する、万城目ワールド全開の二篇が収録されています。
では、一作づつ感想を。
『三月の局騒ぎ』
京都の大学に入学するにあたって、初めて親元を離れ、大学の女子寮に入寮する
ことになった私。この寮内には、少々変わった寮に関する言い回しがあった。
寮生のことは『にょご』と呼び、寮の建物のことは『壺』と呼ぶ。この壺には、
建物ごとに植物の名前がついていた。そして、寮の部屋のことは『局』と呼んで
いた。寮生たちは個性的な人物が多かったが、私が四年間の中で一番鮮烈に印象に
残っている寮生が『キヨ』だった――。
風変わりといえばこの上もなく風変わりだけど、京都らしいといえば京都らしい
女子寮内の寮生活内情を読むのは楽しかったです。なぜか十年以上寮に居座っていて、
その生態が謎に包まれている『キヨ』の正体には驚かされました。キヨが書いた
という、ネットにアップされていた日記、読んでみたくなりました。正体を知って
みれば、文章が上手くて当たり前なのですけどね(苦笑)。キヨが消える直前、
最後に叫んだ、あの言葉に面食らわされましたが。まさか本人がこの言葉を叫ぶとは。
確かに、日本文学史上もっとも有名な篇首(一巻の書物や文章のはじめのことだそう)
の一つには間違いないですね。本書の語り手の娘が、『八月の御所グラウンド』に
収録されている『十二月の都大路上下ル』で、駅伝を走った女の子みたいです。
主人公の名前覚えてないから、主人公だか、一緒に駅伝走った内の誰かなのか、
その辺りは定かではないのだけど(誰か教えて^^;)。
『六月のぶりぶりぎっちょう』
大阪女学館で教師をしている滝川は、六月二日に姉妹校二校の先生を集めて、
合同の研究発表会『大和会』に出席するため、同僚の二人の教師とともに、前日に
会場となる京都のホテルにやって来た。しかし、なぜか目が覚めると、前日のことを
全く覚えていなかった。すると、突然外から銃声が聴こえて来たため、廊下に出ると、
廊下の突き当りを急ぎ足で走り抜けて行く人がいた。その人は鍵らしきものを落として
いて、その鍵には『天下』と書かれた木札がついていた。鍵を拾って左右を見ると、
左手の部屋の扉が開いたままになっていた。その部屋が『天下』らしい。届けようと
扉の中を覗きみたところ、奥の部屋の扉の前で、うつ伏せに倒れている人がいた。
よく見ると、その人は血を流して死んでいた――。
織田信長は、なぜ明智光秀に殺されたのか。謎に満ちたその命題に、どんな新解釈
がつけられるのか――密室殺人事件として取り扱う以上、それなりに納得出来る
謎解きが開帳されるのかな、と期待して読んだのですが・・・うむむ。やはり、
ミステリ作家ではない万城目さんにはこれが限度だったか、という感じ。密室の
謎に関しては、正直、肩透かしな印象は否めなかったなぁ。それに、信長が殺された
真相に関しても、結局有耶無耶なまま。まぁ、そりゃ、史実があるから、下手に
違う解釈なんか出来ないだろうけどさ。じゃぁ、なんでこんな題材選んだのよ、
とツッコミたくはなりましたね。
この作品で一番評価されるべきは、『ぶりぶりぎっちょう』という不可思議な題材
をタイトルにしたところでしょう。ぶりぶりぎっちょうって何なのさ、何かの
擬音かな?とかいろいろ想像してたんだけど、全然違いました。万城目さんの
創作という訳でもなく、実在する平安時代の遊びの一種で、木製の杖を振るって、
木製の毬を相手陣に打ち込む遊び(又はその杖)のことだそう。漢字で書くと
振り振り毬杖(ぎっちょう)。漢字とかなでは全然印象が変わる言葉ですね。
不思議だし、面白い。この、ぶりぶりぎっちょうが物語の重要な要素となる訳
なのですが。織田信長を中心に、いろんな歴史上の人物が登場します。歴史好き
ならいろいろ楽しめる要素が多いと思うんだけど、日本史とか歴史とかあんまり
興味ない人間としては、ちょっとピンとこない作品だったな。謎解きも中途半端
だったしね・・・。
圧倒的に、こちらのぶりぶりぎっちょうのお話の方が分量的には多いし、読み
応えもあるんだけど、個人的には一話目の『三月~』の方が楽しく読めたかな。
まぁ、どちらも、万城目さんらしい奇想天外なお話だったのは間違いないですけどね。