ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

名取佐和子「銀河の図書室」(実業之日本社)

たまに行く隣町の本屋さんの週間ランキングみたいなところに入っていて、名取

さんだし、きっと面白いだろうと借りてみた作品。読書メーターでも読みたい本

ランキングに入っていたみたいですね。

で、読み初めて気がついたんですが、以前読んだ『図書室のはこぶね』の続編

というか、同じ野亜高校が舞台のシリーズ作品でした(出て来る登場人物は先生

以外ほとんど重複してませんが)。図書室に置いてある検索機『本のソムリエ』

の設定にどうも覚えがあって(読み手の気分や目的に合わせておすすめ本が表示

されるシステムが搭載されている)。土曜のダンスのあの本か~!と思い出した

次第(土曜のダンス→体育祭で行われる伝統のダンス行事のこと)。あの作品も

とても爽やかな青春小説でしたからね(借りるまで忘れてたけど^^;)。

本書は、あの作品からコロナ禍を経て、数年が経っている設定。コロナがあった

せいで、土曜のダンスの全員参加などの決まりもなくなっています。まぁ、今回は

土曜のダンスに関してはさらっと流す感じでしか触れられていませんが。

主人公は、野亜高校図書室でひっそりと活動を続ける『イーハトー部』の二年生

部員・チカこと高田千樫。『イーハトー部』は、その名からわかる通り、宮沢賢治

を研究するのが活動の主な内容だ。一年生の春、たった一人の部員で部長だった

風見先輩に誘われ入部し、二人で楽しく活動を続けて来た。しかし、大好きだった

風見先輩は、なぜかある日突然学校に来なくなった。チカに一通の謎のメールを

送って来たのを最後に、メールも電話も繋がらなくなってしまった。このままでは

イーハトー部は廃部の危機に瀕してしまう。チカは、なんとか同級生のキョン

こと石館恭平に仮入部でもいいからと頼み込んで籍を置いてもらい、部の体裁を

保っている。そんな中、新一年生の増子耶寿子が入部したいとやって来た。

宮沢賢治が大好きだという彼女は、チカやキョンヘが引くほど部活動に前のめり

だった。風間先輩のいない三人で部活動をスタートさせたイーハトー部だったが、

チカの心の中には、やはり風間先輩の不在が重くのしかかったままだ。風間先輩が

最後に送って来た<ほんとうの幸いは、遠い>というメッセージは一体何を意味

しているのか。三人は、このメッセージの謎を解き、風間先輩の不登校の理由を

調べようと動き出すのだが――。

いやー、良かったですね。多少のツッコミ所がないわけではないのですが、要所要所

で高校生ならではの青春の青臭さが瑞々しく描かれていて、ビターでヘヴィな部分

を挟みながらも、最後には爽やかな感動が得られる作品でした。

恥ずかしながら、個人的には宮沢賢治をほとんど読んだ経験がないので、作中に

出て来る賢治の既存作は、タイトルくらいしか知らないものばかりだったのですが

・・・^^;;あの有名な『銀河鉄道の夜』すら、読んでませんから・・・(アニメ

のイメージが強いので、あの作品の主人公はネコだとずっと思っていた)。

イーハトー部の部員たちが、宮沢賢治のことを、リスペクトを込めて『賢治さん』

と呼ぶ所が良かったですね。それだけで、なんかいい子たちだなーって思って

しまった(単純w)。

 

以下、一部ネタバレあります。未読の方はご注意ください。

 

 

 

 

 

 

風見先輩の不登校には、予想外に重い理由が隠されていました。でも、これに

関しては、ちょっと腑に落ちない部分もあるのですけどね。風見先輩がしたこと

って、そんなに責められることではないと思うんですが。確かに、結果として

悲しい結末にはなったけど・・・じゃあ、あそこで風見先輩が見て見ぬフリを

したところで、違う誰かが同じことをしただけなんじゃないのかなって。だって、

小さな子どもが一人で歩いていたら、誰だって気になるし、交番に連れて行くのが

定石じゃないですか。男の子の境遇なんて知らないんだから。それを責められて

もね。でも、男の子の境遇を知って、繊細な風見くんは自責の念にかられてしまった。

風見くんじゃなければ、不登校にまではならなかったでしょうけどね。一人の

青年の未来も変えてしまったことで、美濃部さんも一生傷を抱えて生きていかなきゃ

ならないでしょうね。自分が余計なことを言わなきゃ、風見くんはあんな風に大事な

高校三年の一年間を無駄にしなかったでしょうから。それでも、チカの勇気と

風見君への強い思いが、最後の最後で、風見君の意思を動かしたことが嬉しかった

です。イーハトー部の他の二人の部員もいい子たちだし、風見君にとって、新しい

一年間は、楽しいものになるんじゃないかな。いい後輩に恵まれて良かったね。

いつもあっけらかんとしていたキョンヘの、裏の顔にも驚かされました。人間、

表面だけではその人の本質まではわからないものですね。誰にも吐き出せなくて、

ずっと辛かったのでしょうね・・・。

主人公のチカはチカで、高校受験失敗のトラウマを抱えて苦しんでいたし、明るい

マスヤスにも、誰にも言えない過去があった。みんな、それぞれに辛いものを

抱えながら、仲間に恵まれて、それを乗り越えて行くところが感動的でした。

中で紹介されている宮沢賢治作品も読んでみたくなりましたね。詩なんかも意味深な

ものが多くて、興味を惹かれましたし。不思議な魅力のある作家ですよね。

岩手の宮沢賢治記念館にも行ってみたくなりました。

高校生ならではの悩みや青春がいっぱい詰まった一作でした。