ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

町田そのこ「わたしの知る花」(中央公論新社)

町田さん最新刊。今回もまた、大事な人の喪失がテーマ。あと、性的マイノリティー

も。さすがにマンネリが過ぎないか、と正直、若干のうんざり感を抱えながら

読み始めたんですけどねー・・・。でも、やっぱり、なんだかんだで読まされ

ちゃうんですよねー・・・。いやもう、認めますよ。素晴らしかったですよ!

(なぜ逆ギレw)

壮大な、愛の物語ですね、これは。一人の老人の孤独な人生を追って行くお話

なのですが。波乱万丈、紆余曲折あって、最後は穏やかに過ごせたのかな。

高校生の安珠と出会ったことで、彼の人生に少し、彩りが加わって良かった。

でも、もう少し、あと少し、安珠との出会いが早ければ良かったのにな。

ある日、高校生の安珠は、公園で絵を描く薄汚い身なりの老人と出会う。老人の

絵を見た安珠は、一目でその絵のファンになってしまう。葛城平と名乗るその

老人のことが気になって仕方なくなった安珠は、彼を見かける度に話しかけて

いた。彼氏の貴博には関わるなと言われたが、安珠は平と話すのが好きだった。

しかし、ある日彼のアパートを訪ねた安珠は、四日前に平が亡くなっていることを

知る。アパートの大家は、平が安珠の訪問をずっと待っていたという。安珠は、

平のことが知りたくなり、彼の過去を調べ始めるのだが――。

なんといっても、平さんのキャラクターが魅力的ですね。若かりし頃の平さんの

キャラは、時代時代でかなりブレがあって、なかなか印象が一致しなかったの

ですが。少しづつ明らかになっていく平さんの過去を知ることで、読者も少し

づつ平さんというキャラクターの内面に近づいて行く。世間の彼の評価とは

正反対の、彼の優しく愛情深くて繊細な裏側を知って、みんな彼のことが好きに

なるんじゃないかな。彼がなぜ犯罪を犯した街に再び帰って来たのか。なぜ、

ずっと絵本のような絵を描き続けているのか。その真相を知って、胸が苦しくて

やりきれなかったです。彼が心の底から大好きだった女性と別れざるを得なく

なってしまったのが切なかった。

最後に、安珠の為だと思われた刺繍のブローチの、本当の贈り手を知って、

すべてが繋がって、すべてが腑に落ちました。でも、一番そのことを知るべき人が、

そのことを知れて良かった。知らないままで人生を終えたとしたら、こんなに

悲しいことはないと思う。安珠のおかげでしょうね。平さんは、安珠のことを

知っていたのかな。最初の出会いは間違いなく偶然だったと思うけど。途中で

彼女の顔からわかっていたのかなぁ。

安珠が、平さんからひまわりを受け取るシーンがとても好きでした。その時の、

平さんの反応にぐっと来たな・・・なぜ、そんな反応をしたのか、その後で

明らかになるのですけども。そういうの全部ひっくるめて、とても心に残る

シーンだった。二人の関係がとても良かったな。安珠は少し他人の感情に無神経

なところはあるけど、基本的にはとても良い子。安珠と幼馴染の奏斗との関係も

良かったです。一時こじれちゃったけど・・・。奏斗は繊細でちょっと面倒な

性格のところもあるけど、こちらはこちらで素直で真面目な良い子だし。三章の、

奏斗と瀬尾のおじいさんが出会うシーンが良かったな。瀬尾のおじいさんは、

最初嫌なジジイって印象だったけど、悩める奏斗に対する言動は優しくて温かかった。

その後の二人が将棋アプリで繋がってると知って、微笑ましくなりました。

でも、やっぱり、一番の感動は、平さんが最後に描いていた絵の意味がわかる

ラストシーンですかね。アニとエコの物語。刺繍と花束。伏線回収完璧でしたね。

アニとエコが出会えたシーンまで描かれていたら最高だったのだけどね。

でも、きっと物語の中でなら、出会えてハッピーエンドになっているよね。

平さんのエコへの想いが伝わって来て、胸を打たれました。伝わって良かったな。

少し、遅かったけどね・・・。

 

いやぁ、やっぱり、町田さんの作品は胸を打つなぁ。生と死をテーマに

するって時点でマンネリ感があってハードルが上がるんだけど、それを

超えて来るからなぁ。文句のつけようがない。もう白旗上げるしかないね。

今回も素晴らしい作品でした。