ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

薬丸岳「籠の中のふたり」(双葉社)

薬丸さん最新作。薬丸さんらしい、人間ドラマを盛り込んだ社会派ミステリー。

作風が東野さんっぽい。さすがのリーダビリティで、ぐいぐい読ませられて、

二日くらいで読み終えちゃいました。

主人公は父親を亡くしたばかりの村瀬快彦(よしひこ)。快彦は、小学六年生の

時に母親が自殺して以来、他人から心を閉ざして生きて来た。なるべく他人と

関わらないようにしてきたのに、ある日突然、傷害事件を起こして服役していた

従兄弟・蓮見亮介の釈放後の身元引受人を頼まれ、引き受けざるを得ない状況に。

仕方なく亮介と暮らし始めたが、明るく悪びれない亮介の態度に、始めの頃は

イライラが募るばかりだった。しかし、誰とでもすぐ打ち解けられ、壁を作らない

亮介と過ごすうちに、次第に快彦の交流関係も広がり、少しづつ他人と関わりを

持てるようになって行く。だが、ある日、亡くなった父の部屋で、母が結婚する

前に父に宛てた手紙を見つけ、自身の出生に纏わる衝撃の事実を知ってしまう。

そのことと、母の自殺は何か関係があるのか。快彦は、真実を探る為、二人の

ルーツである奄美大島に向かうことに――。

心を閉ざしていた快彦が、従兄弟の亮介と過ごすうちに、他人と接することの

大事さや温かさを実感して、少しづつ頑なな心を溶かして行くところが良かった

ですね。気さくで誰に対しても壁を作らない亮介が、なぜ障害致死事件など

犯したのか、なぜずっと疎遠だった従兄弟の快彦に出所後の身元引受人を

頼んだのか、なぜ二人の親しい人の元に亮介を糾弾する怪文書が届いたのか・・・

いろんな謎に対する真相は、とても切なく、やるせないものでした。母親の

自殺の理由もしかり。こちらは、予想していたものとはだいぶ違っていましたが、

こういう理由なら確かに追い詰められてしまうだろうな・・・と思えて、やりきれ

なかったです。せめて、一人で抱え込まずに、誰かに話していれば。突然母親が

亡くなるショックを、大事な息子に経験させることもなかっただろうに、と

思うと、ただただ、悲しかったです。

快彦の元カノの織江に関しては、あまり好感持てなかったなぁ。自分からフッて

おいて、快彦が他の女性といい仲になったことに腹を立てるって、ちょっと自分

勝手過ぎない?って思いました。別れてから時間が経ってなかったからって、

もう別れているんだし。それで怒る資格はなくない?って言いたくなりました。

まぁ、結果的には誤解が解けて、元サヤに戻ることになった訳だけど。なんだかな

ーと腑に落ちない気持ちにはなりました。まぁ、快彦が幸せならいいけどさ。

あれだけ人と関わることを避けて来た快彦だけど、最後に亮介の真意を悟って、

彼を迎えに行くところにぐっと来ました。亮介は、もしかしたら裏表がある人物で、

何か魂胆があって快彦に近づいて来たのかも、と疑いつつ読んでいたのだけれど、

最後までその人物像はそのままだったので、ほっとしました。これ以上、快彦には

他人に裏切られて傷ついてほしくなかったから。違う意味で、亮介は快彦に対して

裏があった訳ですけどね。

二人の関係性がとても良かったですね。願うべくは、亮介と彼の父親がまた

再会出来ることですね。でも、きっとそう遠くない将来、実現出来るんじゃ

ないかな。

社会派ミステリーには間違いないけど、どちらかというと友情や愛情をテーマ

にした人間ドラマ色の方が強い作品だったかな。薬丸さんには珍しいタイプの

作品かもしれない。

タイトルの意味がわかるラストシーンを読み終えて、温かい気持ちになれました。

作中にちらっと、我が地元が出て来るのも何気に嬉しかったです(笑)。