ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

池井戸潤「俺たちの箱根駅伝 上下」(文藝春秋)

池井戸さんの最新作・・・まぁ、予約に乗り遅れて、回って来るのに大分時間

かかりましたけど^^;上下巻順番に回って来るように予約してあったので、

ちゃんと順番に、しかも同時期に回って来て、上下巻一気読みできたから良かった。

前に、誰かの上下巻の作品で、順番予約してなかったら、下巻から回って来ちゃった

ことがあって、困ったことがあったので(でも、下巻の返却期限の前に上巻も

回って来たから、結果として順番通り読めて、ことなきを得たんじゃなかったかな)。

箱根駅伝をテーマにした作品といえば、三浦しをんさんの『風が強く吹いている』

という大名作があるから、なかなかあれを超える作品は難しいのでは・・・と

思いながら読んでましたが・・・いやー、さすが池井戸さんですね。また全然

違ったアプローチの仕方で、箱根駅伝の素晴らしさを伝えてくれました。これは

間違いなく映像化されるんじゃないですかね。

二つの視点から交互に語られて行く形式なのですが、ひとつは、箱根駅伝に出場

する正規のチームではなく、順位も記録も残らない、本戦出場に漏れた大学から

集められた『学生連合チーム』側の視点。もうひとつは、箱根駅伝の様子を中継

する大日テレビのスポーツ局側の視点。どちらも、箱根駅伝を扱った過去の

作品にはなかった者たちがクローズアップされていて、なるほど、こういう

切り口もあったのか~と目からウロコの思いがしましたね。

箱根駅伝は、正直、母校の順位を中心に観ているので、学生連合に注目したことって

ほとんどなかったです。でも、今回この作品を読んでいて、学生連合で集められた

学生たちもそれぞれに、母校を代表して、いろんな思いを持ってレースに参加

しているんだな、と改めて気付かされました。いや、当たり前なんだけどさ。

それは、正規の出場チームだって変わらないのだけど。順位には反映されないし、

どんなに速いタイムで走ったところで記録にも残らない。昔はきちんと記録に

反映されていたらしいのだけど。それでも、一緒に走る仲間のために、少しでも

早くタスキを繋ぐ為に必死で走る彼らの姿に胸が熱くなりました。

上巻は、学生たちが集められて練習して行く過程を描いているのだけど、その

間には紆余曲折あります。衝突もあるし、反発もあるし。それでも、学生たちは

それを乗り越えて、当日を迎える。下巻は、まるまる一冊本番の二日間を追う

構成。一章ごとに一区づつ描かれ、全十区十章仕立ての構成(+エンディングの

最終章がありますが)。走る選手それぞれの心情やレースの様子もじっくり

描かれているので、実際本番を観ているかのように、とても臨場感や疾走感が

ありましたね。

一方で、その駅伝の様子を伝えるテレビスタッフたちの奮闘も読み応えがありました。

いつも何気なくテレビを観ていたけれど、放送する方も、あれだけ大変な思いを

して中継しているんだなぁ、と驚かされました。生中継ならではの大変さというか。

レースは水ものだから、いつどこで順位が変わるかわからない中で、スポンサー

にも配慮して、適切なところでCMを挟まなきゃいけなかったり。タイミングが

少しでもズレたら、いろんな方面からクレームが来る訳で。放送する側の緊迫感

も非常に伝わって来て、読み応えありましたね。

今まで知らなかった箱根駅伝蘊蓄なんかも知ることができて面白かった。なぜ、

中継ポイントの中に箱根小涌園が入っているのか、とか。そんないい話が背後に

あったのかー、へぇ~!って感じでした(笑)。

学生連合チームの監督を率いた甲斐のキャラクターは、なんとなく青山学院の

原監督と重なるものがありましたね。レース時の声掛けの様子とか。レース

の組み立ての考え方とか、なんとなく。まぁ、青学は青学として登場するし、

原監督も普通に名前が出て来るんですけども。原監督が実際学生連合チームの

監督をして、いい成績取ったことがあるって逸話も出てましたしね。そういう実績

から、こういう作品の発想を得たのかなぁとか思ったり。

いろんな大学からの寄せ集めだとしても、個々の能力と適材適所を見極めることで、

上位の成績を収めることが出来る、ということを教えてもらえた作品でした。

それは監督の力も大きかったと思う。もちろん、個々の頑張りが一番ですけどね。

それぞれの駅伝にかける思いの強さに、何度も胸が熱くなりました。長く明誠学院

大学を率いてきた諸矢監督が、なぜ突然引退すると言い出したのか、その理由は

思った通りでした。逆に、報道側の人間の中で、そのことを指摘する人がなぜ

いないのか、疑問を覚えたくらい。一番最初にソレを疑うべきなのでは、と

思いましたね。

ぐっとくるエピソードがたくさんあって、どれを取り上げていいやらって感じ

でしたが、最後の最後に明かされた、ある人物のその後についてだけは、やりきれない

気持ちになりました。もう少しだけ、せめて来年の箱根までは見せてあげたかった

なぁ・・・。

学生連合チームの結果も含め、予定調和が気持ちいい。出来過ぎだろうと言われ

ようが、これが池井戸作品の醍醐味でもあると思う。

ぐいぐい読まされて、上下巻合わせて700ページを超える作品だけど、全く

長いと思わなかったですね。一気に読めて良かった。

箱根駅伝ファンもそうでない人も楽しめるエンタメに仕上がっていると思う。

来年の箱根駅伝は、母校をチェックしつつ、放送局と学生連合チームに注目して

観ちゃうかも(笑)。