ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

呉勝浩「爆弾」(講談社文庫)

初挑戦の作家さん。2023年度版のこのミス一位作品。単行本版は予約が多くて

手が出せずでしたが、人気作なので早々に文庫が出たようで、そのタイミングで

予約しておいたので、さほど待たずに回って来ました。

いやー、とにかく時間がかかりました・・・爆弾犯と警察の駆け引きの心理戦

部分が長くて長くて。いや、もちろん、そこがこの作品の読ませどころの一つ

ではあるのですが。爆弾犯スズキタゴサクの詭弁がだらだら続くところは、読み

始めるとなぜかすぐに睡魔が襲って来てしまい・・・なんか、思った以上に時間が

かかってしまった^^;同じページの同じ文章を何回も読み直す羽目になったり。

これの前に読んでた池井戸さんの作品だと、まったくそういうことがなかったの

ですけどもね。いや、こんな風に書くと退屈だったと思われてしまいそうだけど、

それはなくて。スズキと取り調べ官の刑事(何人か交代するのだけど)との爆弾

が仕掛けられた場所を巡る攻防戦の部分は、お互いの思惑が交錯して、かなり緊迫感

があり、読み応えありました。読んでいて思い出したのは、解説でも触れられて

いましたが、やはりトマス・ハリスレクター博士シリーズ(初めて触れたのは

映画からでしたが、一応原作も当時読みました)。あちらは殺人犯にして天才

精神科医として非常にクレバーな人物像として登場しますが、こちらのスズキは、

見た目もブサイク、ホームレス上がりで何者にもなれない男、という冴えない

キャラクター。ただ、スズキは非常に狡猾で、計算高く、警察との駆け引きにも

動じない冷静さを兼ね備えているという意味では、クレバーなキャラクターと言え

なくもないとは思うのですが。とにかく、スズキの言動がふてぶてしくて、イライラ

させられました。相手をイライラさせることを前提として話している節があるので、

まんまと相手の術中にハマってるとも言えるのでしょうが。自分が仕掛けた爆弾で

犠牲者が出たと聞いても、ニヤニヤと笑っていられるサイコパスっぷりに怖気が

走りました。スズキの真意がどこにあるのか、最後まで翻弄させられました。

ラストで二転三転しながら明かされるこの爆弾事件の真相には、意外な事実も

隠されていて、ミステリとしてもなかなか秀逸な作品だと思いました。ただ、

その時々で取調官が交代するのですが、いまいち、それぞれの人物のキャラクター

の違いが把握できず、混乱しました。特に、清宮と類家、どっちがどっちか、

未だによくわからない・・・。ここは、一人でも良かったんじゃないかなぁ・・・。

なんか、こういう取り調べ刑事の交代劇みたいなものがあったことで、余計に

ごちゃごちゃした印象になってしまった感じがしたので(私だけかもですが^^;)。

映像でビジュアルが見える状況だとそんなこともないのだろうけれども。文章だけ

だとね。想像するしかないから。

類家はなんか、ちょっとスズキとは違ったサイコパスみがありましたね。

スズキが仕掛けた爆弾が爆発する度に、関わった人々は、命の優先順位という、

究極の選択に直面する。女刑事の倖田は、怪我した仲間の同僚か、多数の人命かに

直面するし、課長の鶴久は、娘の安否か一般市民の安全かで迷わされるし。大学生

のゆかりは、目の前で倒れた老婆を助けるか、自らの安全を選んで逃げるかを

選ばねばならなかった。いずれも、切羽詰まった状況に於いては、誰もが無自覚に

本能的な選択をすることがわかる。自分だったらどうだろう、と思わず考えさせ

られてしまう。トロッコ問題を思い出しましたね。どちらを選んでも後悔しそう。

どんなに大勢の犠牲者が出るとわかっていたとしても、自分自身や大切な人を犠牲

にして多数の安全を選べるだろうか・・・と考えると、全く自信はないです。理性的

な判断をするのは無理だと思う。情けないけれど、それが人間の本能じゃないだろ

うか。

 

ちょっと時間はかかったけど、世間で評価される理由は頷けるものがありましたね。

究極の心理戦。文庫で500ページ以上あったので、とても読み応えがありました。

人間の悪意や醜さの暗部を赤裸々に描いているので、少々読むのに疲弊してしまった

けれども。メンタル弱いときは読まない方が良いかも・・・^^;

スズキの最後の爆弾は一体どうなったんだろうか。どこかに仕掛けられたまま?

最近続編が出たそうなので、その残りの一つの爆弾の行方も描かれているのかな?

予約が落ち着いたら、そちらも読んでみたいですね。