
久々中田さんの新作。といっても、もともと児童文庫で三巻に亘って出版された
ものが、一冊にまとめられて単行本化されたようです。手にとって、まずその
分厚さに若干引いてしまい(総ページ数600ページ超え)、予約本も詰まって
いたので、読み切れる自信がなく、数ページ読んで返してしまおうかとも思った
のですが・・・いやほんと、返さなくて良かった。
読み始めたら止まらなくなって、気がついたら先へ先へとページが進んでました。
基本的に、最近ラノベや漫画界隈で流行りの異世界転身ものとか、あんまり食指が
動く方じゃないんですよ。これも、出だしでその手の作品だとわかった時点で、
若干読むテンションが下がってしまい、読まずに返しちゃおうかな発想が出て来た
訳だったのですが。一応、アマゾンの評価見てみようと見てみたら・・・めっちゃ
高評価。あれ、これは読まずに返すのは勿体ないのかも・・・と思い直して、読み
進めて行ったら・・・何コレ。めっちゃ面白いやんけー!読むの止まらんやんけー!
(なぜか関西弁w)そこからはもう、先が気になって気になって。設定とか出て来る
キャラとか、いかにもラノベとか漫画っぽいんですけどね。もともと児童書体裁
ですし。ツッコミ所も満載なんですけど・・・そこがかえって、エンタメに特化
していて良かったといいますか。主人公のキャラが最高に良いんですよ。もちろん、
脇を固めるキャラクターたちもそれぞれに素敵なキャラばかりなのですけども。
主人公は、交通事故に遭い、死亡してしまったサラリーマンの僕。なぜか、次に
起きた時、僕が大好きだったアニメ『きみある』の世界に転生していた。しかも、
僕が転生したのは、『きみある』の中で主人公の葉山ハルをいじめていた悪役で
12歳の城ヶ崎アクト。見た目も悪魔的容姿で、通っている雲英学園では、大富豪
の息子という立場を利用して悪行三昧。誰からも恐れられている存在だった・・・。
主人公が交通事故で亡くなって、次に転生した先が、自分が大好きなアニメ作品という
二次元の世界観の中だった、というのは、まぁこの手の異世界転身譚ではあり得そうな
設定といえなくもないと思うのですが、この作品の面白いところは、主人公が
転生したのが、アニメ世界の主人公ではなく、悪役の方だった、というところ。
それも、ヒロインを始め、気に入らない人物をターゲットにしては、いじめを
繰り返し、学園中から恐れられていた最低最悪の人物。大富豪の息子であるが故に、
同じく富豪の友人二人と共謀し、悪逆非道の行為をしまくっていたという(しかも、
小学生の時から!)。けれども、主人公の僕はそんな人間とは真逆の、至って
真面目で善良な性格。主人公が乗り移ってからのアクトは、人が変わったかのように
善良な行いをするようになり、周囲の人々を戸惑わせる。そんな僕は、大好きな
アニメ『きみある』のヒロイン葉山ハルが、数年後に白血病で亡くなってしまう
ことを知っている。アニメの展開がすべて頭に入っている自分ならば、ハルの運命を
変えることが出来るかもしれない、と考えた僕は、彼女の運命を阻止する為、
あらゆる手を尽くし始める――といのが大筋。
以下、感想がネタバレ気味です。未読の方はご注意ください。
主人公のハルに対する献身がとにかく健気。自分がどれだけ嫌われようが蔑まれ
ようが構わず、とにかくハルの病気を治すことだけを目標に、さまざまな行動に
出る。その行動は、とても大富豪の御曹司とは思えず、周りの人々の心も少しづつ
動かして行くことになる。その過程が丁寧に描かれていて、ぐっと来ましたね。
白血病のドナー登録を訴える該当ボランティアに、季節関係なく一日中立ち続け、
声を張り上げてお願いしたり、ハルの生き別れの兄を探して、一人で新幹線に
乗って地方に行こうとしたり(結局、アクトを慕う取り巻きの二人組が無理矢理一緒
に行くことになったけど)。いくら中身が元は28歳のサラリーマンだとしても、
これほどの熱意で誰かの命を救おうとすることが簡単に出来るとは思えません。
何の打算も計算もない純粋な彼のハルに対する献身的な言動には、何度も胸を
打たれました。
その、小学生時代からアクトの取り巻きで、一緒にアクトの悪行に参加して来た
出雲川史郎と桜小路姫子にも、その熱意と善意が次第に伝わって、二人もだんだん
善良な人物に変わって行くところが良かったですね。善良になり始めてからの二人の
キャラクターはどちらもお気に入りでした。アニメ『きみある』でヒロインの
恋愛相手である佐々木蓮太郎も、さすが物語の主人公という性格の良さで、いい
キャラでしたね。家族ぐるみでアクトと付き合う場面に何度もほっこりさせられ
ました。でも、アクトが善良なキャラクターになったことで、もともとの『きみ
ある』のストーリーとはどんどん物語が違った方向に行ってしまい、結局、ハル
と蓮太郎の間の恋愛感情もなかったことになってしまうのだけど。結局、蓮太郎
が言うべきセリフは、アクトから発せられることが多かった。ただ、ハルにアクト
への恋愛感情が芽生えたかどうかは、わからないまま終わってしまいましたが。
でも、続きがあるとしたら、きっとそういう方向に向かっていくんじゃないかな。
ハル自身も、アクトがどれほど自分に尽くしてくれたかわかっている筈ですから。
残念だったのは、城ケ崎グループの終焉までは、止められなかったところ。大財閥
の崩落を一人の少年が止められないことはわかるのだけど、その片鱗が見えた時に
少しでも父親とかブレーンの誰かに注意喚起してたら少しは結末が違っていたんじゃ
ないのかなぁ・・・。でも、父子の交流はこれからも続けるとのことなので、今後は
親子の距離も縮まって行くのかも。
最後は大団円で良かったです。アクトがあれだけ大変な思いをして見つけだした
ハルの兄のHLA型が一致しなかったら・・・と思うとぞっとしましたけど。そこは
フィクションの世界ってことで。ご都合主義と言われようが、一致してほっと
しました。
いやー、ほんと、圧巻の面白さだった。今年一番のめり込んで読んだ本かも
しれない。
読み終えて、主人公を始め、すべてのキャラクターが愛おしくなりました。アクト
の使用人たちもみんな、素敵な人ばかりだったなぁ。特に、城ケ崎家が崩壊した
後もアクトの側にいてくれた三人は良かったな。
主人公の『僕』が転生する前はたくさんの悪役がいた筈ですが、転生後の作品
世界では、悪い人が一人も出て来ないんですよ。悪役っぽく出て来たアクトの父親
でさえ、アクトの影響でだんだんと悪い人物には思えなくなって行ったし。強いて
いえば、アクトに小学生時代にいじめられた恨みを高校生になっても忘れられない
ハルの親友の言動にはハラハラさせられましたが・・・基本は悪い子ではないし、
いじめを受けたのだから仕方がないみたいなところもあったしね。ちょっと思いつめ
すぎて、言動に恐怖を覚えたけれど^^;;最後にはトンデモ行動に出たし(怖)。
でも、最後には、彼女にもアクトのハルへの真摯な思いが伝わったようで、少し
態度が軟化していたように思うのだけど。
みんな、真面目で親切になったアクトの影響で良い人になって行く。そこがすごく
好みだった。設定とキャラクターの勝利じゃないでしょうか。さすが中田さんだ。
ラノベっぽい表紙と設定で敬遠されそうですが、たくさんの人に読んでほしい、
最高のエンタメ小説だと思いました。