ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

桜庭一樹「名探偵の有害性」(東京創元社)

桜庭さん新刊。久しぶりの桜庭さんのミステリー!と思って結構楽しみに読み始め

たのだけど、読んでみたら、あれれ、これってミステリー?って首を傾げるような

内容だった。いや、確かに、過去に名探偵が解決した事件の謎解きが出て来たりは

するのだけど・・・でも、いまいち感心するようなものでもなく。どちらかというと、

過去に名探偵と助手として名声を欲しいままにしていた二人組が、20年ぶりに

再会して、過去の事件をおさらいしていく回顧譚って感じ。

かつて、名探偵たちが日常的に活躍していた時代があった。その時代に活躍していた

のが、名探偵四天王のひとりで、わたしの探偵・五狐焚風だった。わたしは、助手

として風と共にいろいろな事件に関わった。しかし、ある事件がきっかけで、わたし

と風はコンビを解消した。名探偵の栄光も少しづつ世間から忘れられていった。

そして、20年の時が経ち、令和の世の中になった今、とあるYouTube

チャンネルで、かつての名探偵たちの弾劾が始まった。名探偵の有害性を説くその

ユーチューバーは、「名探偵に人生を奪われた。私は五狐焚風を絶対に許さない」

と強いメッセージで風を糾弾した。なぜかはわからないが、このタイミングで風は

20年ぶりにわたしに会いに来た。わたしと風は、かつてわたしたちが解決した

事件の関係者たちに会いに旅に出ることに――。

 

 

感想、ネタバレ気味です。すみません。未読の方はご注意ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

うーん、名探偵だった風と主人公の夕暮の関係性は良かったと思うけど、がっつり

ミステリーを期待していた側からすると、ちょっと最後まで読んでもミステリー的な

驚き等がなく、肩透かしだったと言わざるを得ないかなぁ・・・。登場人物の

キャラクターはいかにも桜庭さんって感じでしたが。ただ、主役の二人以外は、あまり

好感持てる人物いなかったなぁ。久しぶりに再会した二人が、お互いの存在の大切さ

を再認識して、恋仲になったりするのかな、と期待したところもあったけど、そこも

完全に肩透かしだったし。夕暮は離婚直前だし、風の方はとっくに奥さんと別れて

いて、二人の間に何の障害もなさそうだと思ったんだけど・・・結局、二人の間に

あるのはどこまでも固い友情関係だったってオチだった訳で。風の方は元奥さんに

未練たらたらなんだもんなぁ。いや、そもそももともと友情関係でしかなかったって

感じなんだろうけどね。それは、二人の会話とか読んでれば、明らかではあるの

だけどね。

肝心の、YouTubeに投稿した告発者の正体も、え、こんなあっさり明かされ

ちゃうの!?って感じだったし。二人に会った後は、なんだか怒りもなし崩しに

なってしまった感じだったし。何だよ、それ、とツッコミたくなりました・・・。

でも、一番理解不能だったのは、夕暮の夫と不倫している佳さんの言動。途中から

風と夕暮の後について回って、夕暮の手伝いをしてあげる、みたいな態度に唖然。

一体何がしたいんだ、と本当に理解不能だった。自分が不倫してるって自覚ない

のか!?と呆れました。ある意味サイコパスなのかと思いましたよ^^;夕暮も、

なぜか強く拒絶せず、一緒にいさせたりするから、イライラしました。

ただ、唯一、風や夕暮は同世代なので、かつて~だった、みたいな回顧の部分は

共感できるところが多かったですね。名探偵が流行った時代があったというのは創作

なのでそれ以外の部分ね。体力的なこととか、見た目的なこととかね。夕暮の悲哀

は身につまされる部分が多かったかな。夫が大分年下だから、不倫されることにも

半ば諦めみたいなものがあって。容認しているというか。そこはさすがに許容でき

なかったですが。夫自体はあまり出て来ないけど、結構モラハラ気質な印象が

強かった。別れられて良かったよ。夕暮なら、まだまだこれからいくらでもひと花

咲かせることが出来ると思う。頑張ってほしい。

風と本当にこれで別れてしまうとしたら、とても悲しい。またきっと、どこかで

二人が出会えると思いたいな。