ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

桂望実「地獄の底で見たものは」(幻冬舎)

桂さん新作。一度地獄の底まで落とされたアラフィフの女性たちが、紆余曲折を

経て、新たに人生を切り拓いて行く再生譚。

タイトルから、もうちょっと暗い内容を想像していたのだけど、どん底まで

突き落とされた女性たちが、最後にはしっかり第二の人生を歩んで行く、読み

終えてスカッと出来る素敵な作品集だった。四人の主人公たちはみんなアラフィフ

ということで、自分と年齢も近いので、余計に共感出来るところが多かったですね。

突然、夫から離婚を言い渡された五十三歳の専業主婦、旅行会社の部長として長年

頑張って来たはずが、自分の働きぶりを全否定されて退職した五十一歳の部長職

の女性、幼い頃からオリンピックを目指して指導してきた教え子に逃げられた四十六

歳の水泳コーチ、二十二年続けたラジオ番組を突然クビになり、収入ゼロになって

しまった五十二歳のフリーアナウンサー

みんなそれぞれに、今まで頑張ってやって来たことを全否定されるような地獄に

一度は引き落とされる。ただ、そこからそれぞれがそれぞれの方法で、自らを

もう一度奮い立たせて、第二の人生を切り拓いて行く。その成長にワクワクしたし、

人生を半ば過ぎた年でも、まだまだ新たな道が拓かれる可能性があることに、

同年代として嬉しい気持ちになりました。何より、どの主人公も、最後のシーンで、

自分をどん底に突き落とした張本人に一矢報いるシーンがあるので、スカッと

しました。最終的には、相手の方が地獄に引き落とされる羽目になるというか。

相手を陥れた結果がこうなっている、という因果応報の結末が痛快でしたね。

特に、一話目の、若い女に目がくらんで突然妻に離婚を言い渡した夫の末路は

哀れだった。最後に主人公が相手に突きつけた言葉で、相手はさぞかし絶望の淵

に立たされたことでしょうね・・・。ま、自業自得ってやつでしょう。

個人的には二話目の旅行会社の女性のお話が好きだったかな。外国人向けの

体験型ツアーを企画する部署を率いていたものの、働きぶりを全否定されて

退職。個人で事業を立ち上げて、少しづつ顧客を増やして行く。典型的な事業

成功体験ではあるけれど、企業にいた時から顧客にも取引相手にも誠実に仕事を

していたからこそ、独立しても、それぞれの相手から信頼を勝ち取ることが

出来た訳で。英子の誠実な仕事っぷりが気持ち良かったです。すべての企業が

こういう姿勢でいてくれたらいいのにな。まぁ、個人だからこそ出来ることも

あるでしょうが。

どんなに失意に突き落とされても、前向きに諦めずに頑張っていれば、いつか

報われる日が来る、というメッセージが込められているように思いました。

まぁ、実際は、そんなに全部が報われる訳じゃないだろうけど。どんなに

頑張っても、報われないこともある訳で。でも、物語の中でくらい、未来は

明るい、やったことは報われるって思いたいじゃない。

アラフィフだからって、年齢を理由にできない、やれないなどと尻込みしては

いけないな、と身につまされましたね。人間はいくつになったって、いろんなことに

挑戦出来るんだ、とエールをもらえる作品でした。