本多さん最新ミステリー。今までの本多作品とは少し趣向を変えて、比較的
王道よりの警察ミステリーです。こういう作品も書かれるんだなーと少し新鮮
でした。三作の中編集。他人から「ザ・モブ」と揶揄され、あだ名が『モブモブ』
とつけられてしまう程平凡な顔立ちの和泉と、恐ろしく美人だが対人恐怖症で
他人と会話することができない瀬良、凸凹な刑事二人がコンビを組み、難事件に
挑むバディもの。和泉は平凡を絵に書いたような顔立ちだが、取り調べのスペシャ
リストと呼ばれる先輩から教え込まれた聴取術が武器。モデルのような瀬良は
刑事とは思えない程人と接することが苦手だが、類まれな観察眼を持ち、小さな
違和感を見逃さない。なかなか面白いコンビだなぁと思いました。瀬良の対人
恐怖症キャラには、ちょいちょいイライラさせられることもありましたが・・・
話し方とか。そもそもほとんどしゃべらないしね。いくら優秀な観察眼を持って
いたからって、他人に対してあれだけびくびくしていて、よく警察に入れたよなぁ。
警察学校の時とかどうしてたんだろ。あんな性格で、厳しい警察学校の試験を
パス出来るとは思えないのだけど・・・。『教場』の世界だったら、確実に同期に
潰されてるぞ(笑)。まぁ、バディを組んでから、少しづつ和泉には心を開いて
いるようなのがせめてもの救いかな。人間洞察力に優れているから、人間が怖い
という、和泉の深層心理に気づいていたのかもしれないですね。自分と同類だって
いう何かを感じていたのかも。というわけで、なんだかんだで一周回って、いい
コンビってことで。
ミステリ的にもなかなか読ませる作品でしたね。人間心理の部分で意表をつく展開
に持って行くあたり、本多さんの上手いところだなぁと思わされました。
では、各作品の感想を。
『イージー・ケース』
マンションの一室で、30代の独身男性が殺害された。被害者はあるアイドルグループ
のファンだった。県警捜査第一課の和泉は、コンビを組まされた中山署の瀬良と
ともに捜査を進めて行く。すると、訪問介護員だった被害者が、訪問先の家族と
トラブルを起こしていたことを突き止めるのだが――。
犯人が浮かび上がり、自白を引き出す取り調べが始まってからがこの作品のキモ。
真実が明らかにされていくにつれて、被害者と加害者に対する感情が逆転して
行くように感じました。殺人は絶対にダメだけど。動機が理解出来てしまうだけに、
やりきれなくなりました。
『ノー・リプライ』
警察に、女の声で『・・・死んじゃったみたい』という通報が入った。捜査員が
現場に急行すると、男性が刃物で刺されて倒れており、通報したと思しき女も
その場にいた。女は殺害を認め、逮捕された。しかし、取り調べを始めると、
なぜか罪を認めていたはずの女は、尋問に対して黙秘を貫いた。背後には一体
何があるのか。
犯人が黙秘を貫いた理由がわかって、そういうことか、と腑に落ちました。でも、
いくら犯人が素直に罪を認めたからといって、犯人の自宅捜索はしますよねぇ。
あんな明らかな場所に置いてあったモノを捜査員が気づかないなんてことが
あるのかな、とそこはちょっと首を傾げてしまった。見落としたとしたら、
警察大丈夫?って思うけど^^;これも、真相を知ると、加害者側に少し同情したく
なってしまったな。取り調べの時の悪態三昧にはムカつくだけだったけれど。
『ホワイト・ポートレイト』
両親からネグレクトを受けていた小学生の少年がいなくなった。警察は誘拐事件
として捜査に乗り出し、犯人と思しき男が炙り出された。誘拐の証拠が明らかに
ならない為、別の容疑でしょっぴき、取り調べを受けさせることに。取り調べの
プロフェッショナルと言われる都倉が担当したが、相手は弁護士を従え、のらり
くらりと証言をはぐらかした。そこで都倉はある手段に出る。しかし、それが
裏目に出てしまい――。
らしくない都倉さんの行動に驚きましたが、そこには思いがけない真相が隠されて
いました。都倉さんと和泉の師弟関係は好ましく思っていただけに、この結末
には胸が痛みました。当然結末は最悪の事態になるだろうと予想していましたが
・・・いい意味で、裏切られました。そんなにうまく行くものかな?どうやって?
とか、いろいろ疑問に思うことはあるけど、とにかくこの結末で良かった。ツッコミ
どころがあろうとも、この結末にしてくれた本多さんに感謝したくなりました。
和泉が気づいてくれて良かったなぁ。都倉さんの思惑も含めてね。
この作品、本多さんの作家生活30周年記念作品なのだそう。鮮烈なデビュー作
から、もう30年ですか。早いですねぇ。最近の作品は、初期の頃とは少し
雰囲気が変わったような印象も受けるけれども、人間の深層心理をつく、情緒
溢れる作風は変わっていないように感じました。
作家生活30周年、おめでとうございます。
deleの続編もお願いしますぅ・・・。