大崎さん最新刊。伊豆半島の付け根に位置する里海町の町役場で職員をしている
坂口由佳利は、結婚が破談になったばかりで意気消沈していた。そんな中、
由佳利を訪ねて刑事がやってきた。由佳利が担当する地元作家の文学館「貴地
崇彦生家館」の所有物に関して聞きたいことがあるという。詳細は教えてもらえ
なかったが、何か不穏な事件が起きたらしく、独自のルートで調べてみると、
数日前に山中で発見された身元不明の死体のポケットから、貴地崇彦に関係する
葉書が出て来たらしい。戸惑う由佳利の前に、生前の貴地の愛人だったと噂される
仲村艶子という老齢の女性が現れ、貴地に関して調べたいことがあるから協力して
ほしいと頼まれる。調査をしていると、偶然に由佳利の同級生だった小林夏央
と再会し、夏央が貴地の友人の親類だったこともあり、調査に加わることに。三人
で調べを進めるうちに、貴地が謎の「かぞえ歌」を残していたことがわかり、
その秘密を探っていくことに――。
地方の文豪の謎を、素人探偵三人組が少しづつ追っていく過程はなかなか面白かった
です。ただ、タイトルにもなっていて、ミステリーのキモの部分かと思われた
かぞえ歌の謎解きが、なんとも弱くて拍子抜け。そこは、もう少し読ませる工夫を
してほしかったなぁ・・・。もっと暗号みたいになっているとかさ。かぞえ歌の
歌詞が変わっていることが多少謎解きに絡んでは来るけど、その部分がなくても
謎は解けたんじゃないかってくらいの扱い。本格テイストを目指して書いた作品
だとは思うけど、やっぱり大崎さんはライトな日常の謎系の方が合っているのかも
しれない、と思ってしまった。
艶子さんのキャラは好きだったけど、実は終盤までは、貴地の愛人だったって部分が
引っかかって、なんとなく好きになりきれない人物だった。偉そうにしているけど、
あなた、そんな立場じゃないよね?正妻に対しての後ろめたさとか少しも感じないの?
って思ってしまって。素敵に年を取ってるのは間違いないとは思ったけど、なんだか
もやもやしながらずっと読んでました。でも、最後にある事実が明らかになって、
そこで印象が変わりました。なるほど、そういう経緯があったんだ、といろいろ
腑に落ちました。そこからは、素直に好きなキャラになりましたね。
ミステリー部分はいろいろと腑に落ちない部分が多かったなぁ。なんだか、すっきり
しない終わり方っていうか。100年前の失踪事件を無理やり現代に結びつけるのは
ちょっと無理があるような。
由佳利の担当の貴地崇彦生家館の今後はどうなっていくんですかね。一度閉鎖の
危機を迎えてしまったら、こういう施設をまた盛り立てるのはなかなか難しいの
では・・・しかもマイナーな文学館。厳しいのは間違いないけど、由佳利には
頑張ってほしいな。
しかし、由佳利の破談については、もう少し後日談があってもよかった気が。
破談の理由、もう少し深い理由があるのかと思ったら、単なる・・・だったんで、
がっかりした。その程度の相手だったのか、と。過去のエピソードとか読んでたら、
もう少しましな人間だと思ってたから余計にね。単に由佳利の見る目がなかった
だけたったという。夏央といい雰囲気になったりするのかな、と思ったけど、
全然それもなく。今後はどうなるかわかんないけど、終盤の険悪ムードを考えると、
なさそうかなぁ・・・誤解(?)は解けたと思うけど、やっぱり裏切られること自体
に敏感になっている時に、ああいうことをされたら、人を信じられなくなるよね。
でも、最後は由佳利も前を向いて行けそうだったのでよかったです。人生まだまだ
これからだから、頑張ってほしいな。