ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

白井智之「名探偵のいけにえ 人民教会殺人事件」(新潮社)

ここ数年ミステリ系界隈の話題をかっさらうことが多い白井さんに初挑戦。いや、

アンソロジーで短編なら何度か読んでいるとは思うのですが、一冊の本にまとまった

作品を読むのは初めてです。シュールな作品というイメージがあったので、若干

戦々恐々としつつ読み始めました。

いやー、冒頭からなかなかすごい大量虐殺シーンが出て来て、いきなり先制パンチ

をお見舞いされた感じ。うぉー、これが白井さんかぁ、と思いましたね。舞台が

海外だったので、ちょっと始めは戸惑いましたし、とっつきにくい感じかなと

思ったのですが、読み進めて行くうちに慣れて行き、途中からはどっぷり嵌まって

読んでしまいました。主役は日本人ですしね。

舞台は、ガイアナ共和国パリマ・ワイニ州、ポート・カイトゥマから南西へ十一

キロの密林を切り開いた小集落、ジョーデン・タウン。宗教家のジム・ジョーデンが、

自らの信者だけを集めて生活している。ここは、怪我や病気の概念がなく、失われた

四肢さえ蘇ってしまうことから、信者たちの間では奇蹟の楽園と呼ばれている。

東京・中野で探偵業を営む大塒宗は、優秀な助手の有森りり子が、ニューヨークに

行くと行ったまま帰国予定の日を過ぎても戻って来ないのを不審に思い、調べて

みると、有力な実業家から、胡散臭い宗教団体の調査に任命されてジョーデンタウン

に向かったことがわかった。りり子は、何らかのトラブルに巻き込まれて帰国

出来ない状況にあるのではないか。不安になった大塒は、友人の乃木と共に、

ジョーデンタウンに乗り込むことに。しかし、着いた早々に、二人はジョーデン

タウンの警備の男に不審者と間違えられて、襲撃されてしまう。乃木が撃たれ、

大塒も覚悟を決めた瞬間、現れたのはりり子だった。りり子は実業家の調査団の

一員としてジョーデンタウンに残り、調査を続けていたのだという。りり子と

共にジョーデンタウンに滞在することになった大塒だったが、そこで度重なる

不審な死に遭遇することになり――。

2023年の本格ミステリ大賞受賞作というだけあって、さすがに細部に至るまで

よく考えられた作品だなぁと思いましたね。終盤は、多重解決ということもあり、

若干くどさは感じたけれど。ただ、多重解決であることの意味もちゃんとあるので

(二種類の見方で、それぞれに解釈が違うという)、ちゃんと腑に落ちました。

ジョーデンタウンという場所の特殊性が、しっかりミステリに生きているところが

上手いですね。人民教会の教えを信じる者にとっては、病気や怪我が存在しない。

余所者にとっては、それがいかに滑稽なことか自明の理だとしても。例えば、四肢

を事故等で失ってしまった人物がいるとします。そうした人物が信者となり、

ジョーデンタウンにやってくると、奇蹟(=洗脳でしょうね)の力で手足が元通り

になったように感じるんですね。もちろん、他の信者にも、それは通用する。

ただし、信者以外の人間には、どこからどう見ても、四肢は失ったままにしか見え

ないんです(そりゃそうだ)。

それを踏まえた上で殺人事件が起きるものだから、いろいろと問題が起きる。解釈も

違ってしまう。

ちょっとややこしいけど、そこがしっかりミステリの解決に生かされていて、

感心しました。面白かった。こんな書き方があるのか、と驚かされたなぁ。しかし、

洗脳というのは恐ろしい。改めて、新興宗教の怖さを思い知らされた感じがしました。

主要な登場人物があまりにもあっさりと退場したりするから、そこも面食らわされ

たけどね。白井さんって、キャラに情が湧かないタイプなんだろうな・・・京極

さんみたい^^;あの人の退場も、あの人の退場も、私はめっちゃショックだったよ!

えぇ、嘘でしょ!?って思いましたもん。ひどいよ(涙)。

でも、それが白井ワールドなんだろうなって思いました。多分、それに慣れないと、

いい読者にはなれないんだろうな。終盤では、あの人のとんでもない事実が

判明したし。とことん、救いないなぁ・・・。でも、最後にタイトルの意味も

ばっちりわかったし、ミステリとしてはこれ以上ないくらい、ちゃんとオチが

ついていて、素晴らしいと思いました。

最初の方に出て来た、りり子が『探偵の教科書』の偽物を買わされたという何気

ないエピソードが、最後に効いて来るところも上手い。上手いけれど、切なかった。

その真相に気づいたからこそ、あの冒頭のシーンにつながるんだろうなと思えて。

でも、ラストシーンに、少し救われた気持ちになりました。あの少年が、こんなに

立派になって(涙)。時間はかかるだろうけど、彼の願いが叶いますように。

これは、確かに話題になるのも頷ける作品だと思いましたね。すごかった。

他の方の感想読んだら、これはシリーズものって書いてあったんだけど、もしかして

私またやっちゃったのか?まぁ、前後しても大丈夫っぽいからいいか。

こうなってくると、評判の良い『エレファントヘッド』も俄然読みたくなってきた。

いや、前から読みたいと思ってるけど、予約多いんだよなぁ。文庫落ち待ちかなぁ。