ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

芦沢央「嘘と隣人」(文藝春秋)

芦沢さん最新作。リタイアした元刑事の元に持ち込まれる様々な事件を描いた連作

ミステリー。日常に潜む悪意を描かせたらやっぱり上手いですねぇ。そこはかとなく

嫌~な気持ちにさせられるお話ばかり。

元刑事の平良正太郎の穏やかだけど渋いキャラクターも良かったですね。退職して

悠々自適の生活を送れるかと思いきや、なぜか度々事件が持ち込まれて来る。本人

は至って常識人だし、穏やかに過ごしたいと思っているはずなのに、なぜか悪意

を持った人物と関わる羽目になってしまう。ちょっと気の毒といえば気の毒ですが。

一話完結でさほどページ数はないですが、しっかり最後に落とされるタイプの作品

ばかりなので、読み応えもあって良かったですね。身近な人間の本性が明るみに

出る話ばかりなので、イヤ~な気持ちにはなりましたけどね^^;

 

では、各作品の感想を。

『かくれんぼ』

歯医者の帰り、正太郎は娘のママ友と言う女性に声をかけられ、いきなり自転車を

貸して欲しいと頼まれる。躊躇しつつも、すぐに戻って来るという女性の言葉を信じ、

貸してあげることにしたものの、女性は二時間経っても戻って来なかった。しかし、

その後女性が戻って来られなかった理由が判明し――。

突然良く知らない他人に自転車貸してって言って来る人間、私だったら絶対信用

出来ないと思いましたね。正太郎が貸してあげたのにモヤッとしましたが、案の定

帰って来なくて、あーやっぱりね、と思ってたのですが・・・まさかの展開になって

驚かされました。悪意の人間は別にいて、信じられない理由で彼女を貶めようと

していたところに呆然としました。こんなママ友嫌過ぎる(><)。

 

『アイランドキッチン』

家庭菜園にはまった正太郎は、そろそろ妻と二人で住む為の庭付きの家を購入

してもいいのではないかと思いつき、不動産屋を尋ねる。いくつか紹介された

物件の中に、過去の事件で訪れたことがあるマンションがあった。正太郎は、その

時の出来事を思い返し始める。それは、モンスター級のクレーマーの標的になり、

そのマンションから百貨店員が転落死した事件だった――。

宮部さんの原田いずみ級のモンスターキャラが出て来てぞっとしました。こんな女に

目をつけられてしまったことがもう、悲劇の始まりというか。身に覚えのないことで

こんなに責められて、本当に被害者が気の毒だった。別れた夫が語る結婚当時の

エピソードもすごかったしね。しかし、それとは全く別の悪意がラストに明らかに

なって、違う意味でぞっとさせられました。人の死が関わっているにもかかわらず、

自らの利益を優先に考える――こんな人間にはなりたくないな、と思わされたの

でした。

 

『祭り』

正太郎夫婦は、いろいろ熟考した結果、間取り2LDKで庭付きの、七階建て一階の

中古マンションを購入した。

引っ越しの際、正太郎はガスの開栓に立ち会う為先に先に新居に行き、妻は

元の家で引っ越し屋に対応していた。すると、終わった後で妻が二人組でやって来た

引っ越し屋の態度が悪かったと感想を述べた。それを聞いて、正太郎は現役時代に

経験した六年前の事件を思い出していた。事件の被害者の一人が、引越し業者に

勤める外国籍の男性だった――。

アジア人の外見なんて、確かに似てるし区別つけづらいよなぁと思いました。外国人

労働者の扱いの酷さに胸が痛みました。上に立つ人間がこんなだったら、そりゃ

働くの嫌になるでしょうね・・・。

 

『最善』

妻の年若い友人の夫が電車で痴漢をした罪で捕まった。しかし、妻の友人は、

夫はやっていないと言っているという。彼女の夫が乗っていたその車両では、

痴漢事件の直後に、降車時に乳児が母親の抱っこ紐から転落して死亡するという

痛ましい事故が起きた為、そちらの騒動に人の目がいってしまい、痴漢事件の

目撃者が出て来ないのだという。正太郎は、妻から友人の相談に乗って欲しいと

頼まれるのだが――。

妻の友人の夫の言動がいちいち引っかかっていたのだけど、真相がわかって、いろいろ

腑に落ちるものがありました。もともとの人間性に問題がありましたね。夫の

本性がわかって、ある意味良かったのかもしれない。本人は、回りに迷惑をかける

人間を、ほんの少し懲らしめてやろう、くらいの軽い気持ちだったのかもしれない。

でも、その結果が最悪の事態を招いてしまった。そのことを悔いる気配がないのが

一番怖かったかもしれない。正しいことをしていると思い込むと、人はどんな悪い

ことも正当化出来るんでしょうね・・・。

 

『嘘と隣人』

正太郎は、ふとしたきっかけで知り合った同じマンションの住人の女性から、

元刑事であることを知られて、相談に乗って欲しいと頼まれた。その女性曰く、

知人のお嬢さんがベビーマッサージの先生をしているのだが、SNSでアンチに

脅されて困っているという。そのアンチを特定出来ないかというのだが――。

アンチの正体は、思っていた通りの人物でしたね。SNSで自分を良く見せる為に

嘘をついた結果が招いた悲劇。これって、今の世の中、結構どこにでも転がって

いそうな出来事ではありますよね。軽い気持ちで発言したことが回り回って大きな

事件に繋がって行く。ネットでの発言には、くれぐれも注意したいですね(まぁ、

私はSNS系はやってないけどさ)。

ラスト、正太郎がついに探偵活動に乗り気になったようなので、もしかしたら

続きが読める日が来るのかも、と嬉しくなりました。

 

 

ちなみに、この記事書いた後で知ったんですが、今回の直木賞候補に挙がった

そうですね。そろそろ芦沢さんの受賞も来るかな?(候補作、本書しか読んで

ないから比較出来ないけど、他も強敵そうではあった^^;)。