
町田さん最新作。いやー、重かったですね。負の連鎖が引き起こす悲劇というのか。
親に虐げられたことで、自分の人生も狂わされて行く。ただ、重苦しい人生の中
でも、少し光が見える瞬間もあって。心をぐっと掴まれる作品でしたね。さすが
町田さんだな、と思わされました。
発端は、二人の中学生が抱えた絶対に人には言えない秘密から始まります。お互いの
罪を庇い合うことで、共犯関係になった二人だが、その後は何事もなかったかの
ように離れ、それぞれの人生を歩んでいた。しかし、その十五年後、二人が再会した
ことで、また物語が大きく動き出して行く・・・。なんか、一話目はちょっと
『白夜行』思い出しました。作品構成なんかは全く違うんですけどね。子どもは
親を選べないと言うけれど、この作品には、ほんとに親のせいで人生を狂わされた
人間ばかりが出て来ます。彼らの抱える闇はとつもなく深い。でも、自分が親から
虐げられて来たからこそ、同じ様に親のせいで人生を狂わされてしまった人間の
気持ちがわかる訳で。そこで苦しむ人間に手を差し伸べられる、桐生隆之という
男のキャラクターが、すべての作品の中で光っていたように思います。主人公は
一話ごとに変わりますが、全編通して桐生の人生を描いたと云ってもいい構成
ではないかな。あと、一話目の最後で、悲しい状況で産まれ落ちた正道に関しても。
母親は決して正道を不幸にしたいと思って産んだ訳ではなかったけれど、あの
状況では、どうしたって悲劇の道を歩まざるを得なかったでしょうね・・・。でも、
そこで手を差し伸べたのが桐生だった。正道が小学5年のあの時、桐生と出会わ
なかったら、正道は一体どうなっていたんだろうと思うと、恐ろしいです。小学
3年の時の正道の誘拐事件の真相には驚かされましたね。誘拐犯と言われた
佐吉さんとの交流は、正道にとっては何より大切なものだったのだろうと思うと、
やりきれない気持ちになりましたが。佐吉さん殺害の犯人は、途中で何となく
こいつが怪しいな、と思った人物で合ってました。あからさまな失言がありました
し、その前にもちょこちょこ伏線らしきものは張られていましたからね。これは、
気付ける人も多いかも。ミステリ的な構成としては上手いと思いましたが。
桐生に助けられた正道が、その後他人に手を差し伸べられる人間に成長して行く
ところに救われた気持ちになりました。あんな悲惨な過去を持っていたら、そりゃ
達観した人間に育っても不思議はないけど、逆に歪んだ性格に育つ可能性だって
多いにあった訳だから、桐生の存在は本当に大きかったと思いますね。正道を名前
通り、正しい道に向かわせてくれたと思う。母親の願い通りにね。
中学生になった正道の世話をしてくれた育ての親、紅美子の回もやりきれない
結末でしたね・・・。もう少しで幸せになれるかもしれなかったのに。なんか、
嫌な予感がするなぁ、と思っていたら、その通りの展開になってしまった。小菅
が完全な悪人ではなかったことだけが救いだったかな。最初は紅美子を騙す悪い
奴だろうとしか思ってなかったから。それにも理由があって、根は悪い人間じゃ
なかったから。だからこその悲劇ともいえるでしょうけどね。
最終話は、大人になった正道の話。冒頭からショックな場面が出て来ますが。
子どもだった登場人物が大人になるということは、当時大人だった人物も同じだけ
年を取っているのだから、仕方がないことではあるのだけど。もう少し、彼らが
幸せな時期のお話も読んでみたかったなぁ。きっと、桐生と紅美子と三人で
暮らしていた時は、幸せな瞬間もたくさんあったんじゃないかな・・・。正道が、
最後に職場の後輩と蛍を探しに行くシーンは感動的でした。ほんとうに美しいもの
が二人で見られて良かったです。最後の一文は、さすがに都合良すぎだろうとは
思いつつ、これ以外には考えられない美しいラストだとも思いました。
ちょっと残念だったのは、医療の道を目指していた筈の正道が、最終話では全く
関係なさそうな職業に就いていたところ。奨学金とかの関係で諦めてしまったの
かなぁ。正道が本当に目指したいと思うんだったら、本人がどんなに拒否しても
桐生がその道に進ませるよう配慮したと思うんだよね。途中で諦めてしまったのか、
それとも今の仕事を続ける傍らで挑戦するつもりなのか、その辺りの事情が全く
描かれていなかったので、そこはちょっと不満だった。諦めたのならその理由が
ある筈で。そこをちゃんと書いてもらいたかったな。
正道だったら、患者ひとりひとりに寄り添ういい医者になれそうだと思うから、
初志貫徹してほしかったなぁ。学業の面では問題なかっただろうから、それ以外の
理由があったのかもしれないですけどね。
終始重苦しい空気が漂っているような作品ですが、その中でも、何度か蛍のように
ほんの淡く、救いの光が見える瞬間があり、そこにぐっと心を掴まれました。
町田さんらしい、読み応えのある一作でした。