ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

窪美澄「給水塔から見た虹は」(集英社)

久しぶりの窪美澄さん。窪さんの作品は好きなんだけど、読むのにちょっと

気力が要る感じがして、手を出すものと出さないものに分かれちゃうんだよね。

読めば大抵良かったって感想になるんだけどね。今回は、作品紹介読んで、

なんとなく食指が動いたので借りてみました。

うん、読んで良かった。途中まで結構読むのがしんどかったりしたんですけどね。

主人公が抱える現状のやりきれなさとか、環境からくる閉塞感が重くて辛くて。

物語が抱える外国人問題も、日本人としていろいろと考えさせられるところが

多くて、どう受け止めていいのかわからない感情になったりするし。かなり、

デリケートで難しい題材を取り上げたなぁというのが率直な感想。でも、そこに

ちゃんと一つの道筋をつけて、感動作に仕上げている手腕はさすがだと思いました。

主人公は中学二年生の桐乃。地方の巨大な団地郡の一室に両親と三人で住んでいるが、

桐乃はそれが嫌で嫌でたまらない。団地には古くから建っている低層団地群と、

比較的新しく建てられた高層団地群に分かれていて、桐乃が住む低層団地群には

外国人たちも多く住んでいて、治安もよくない。高層団地群に住む人から、低層

団地群に住む桐乃たちは総じて見下されがちでもある。そんな団地から桐乃は

早く出たくて仕方がない。しかし、父も母も働いているが、所得は決して多いとは

言えず、母に必死で引っ越しを訴えても、体よくあしらわれて終わりの日々だった。

桐乃は学校から家に帰ると、母親が困った外国人たちを部屋に連れ込んで手助けして

やっていることにも耐えられなかった。なぜ母は自分の子どもよりも外国の人を

優先するのか。もっと自分の方を見てほしいと思ってしまうのだった。そんな中、

桐乃は、クラスメイトのヒュウがいじめられているのを助けたことをきっかけに、

自分もいじめの標的になってしまう。クラスメイトから無視されるようになった

桐乃は、学校でも家でも居場所がなくなって行く。しかし、それをきっかけに、

ヒュウと少しづつ話すようになり、距離が近づいて行く。二人の共通の願いは、

いつかこの団地から出て、ここではないどこかへ行くことだった――。

桐乃の辛い心情がひしひしと行間から伝わって来て、ずっと彼女に感情移入

しながら読んでいました。桐乃の状況に置かれたら、私も桐乃と同じように団地

から出たい、もっといい暮らしがしたいと思っただろうし、母親が自分よりも

外国の人を優先して面倒見ることに反発心を覚えただろうと思います。他人の

私から見ても、母親の里穂のやっていることには自己満足にしか思えなかった

くらいなんだもの。いや、自分の過去の辛い経験から外国の人を助けてあげたい

と行動出来るのは立派だと思いますよ?日本の生活に不慣れな外国の人間から

したら、神様みたいな存在だと思う。こういう人がいてくれたら救われるとも

思うし。ボランティアで、自分が得する訳でもないのに、こういうことが

出来るっていうのは本当に偉いと思う。でも、自分の娘を犠牲にしてまで

やることかな?無理のない範囲でやるならいいけど、娘の心情を少しも斟酌

しないで、娘に辛い思いをさせてまでやるのは絶対間違っていると思う。あれだけ

桐乃が家に外国人を呼ばないでって訴えているのに、全然聞く耳持たないところ

には呆れました。だって、桐乃は中学二年で一番多感な時期で、成績優秀で

学業に力を入れたいと言っているのに。家に帰って勉強したいと思っても、

すぐ隣の部屋から母親と外国人たちがぺちゃくちゃしゃべっているのが聞こえて

来たとしたら。集中出来る訳ないし、嫌になるよ。あんな狭い団地の部屋で。

なんで、里穂はそこにもっと気をつけてあげないんだろう、と不思議で仕方が

なかったです。自分がいいことしているって優越感に浸ってるだけにしか思え

なかったし、里穂の言動には嫌悪しか覚えなかったですね。出かける約束も、

案の定世話してる外国人のせいで反故にされてたしね。一度くらい、桐乃を

優先してやれよ、とガッカリしました。まぁ、予想出来た事態ではありましたが。

だから、桐乃がヒュウと共に逃避行(というとちょっと語弊があるかもですが)

した時の里穂の反応には、すこし溜飲が下がる思いがしました。里穂にとっては、

いい薬になったんじゃないかな。

桐乃は桐乃で、『神様』に会いに北関東の町に行ったヒュウを追いかけて現地に

行ったことで、外国人たちの現状を学ぶ機会を得た。それによって、彼女も

母親の気持ちが少しわかるようになって良かったと思います。桐乃の成長が

著しくて、眩しい気持ちになったなぁ。

ラストは嫌な予感しか覚えなかったんだけど、最悪の場面は描かれていなかった

から、いい方に捉えたい。絶対、ヒュウと桐乃は再会出来ている筈。二人の

友情がこの先もずっと続いていますようにと願うばかりです。

桐乃とヒュウ、二人の未来が明るいものでありますように。

ルーツの違う二人が、少しづつ距離を縮めて交流していくところに心を掴まれ

ましたね。母親の里穂のことは、最後まで好きにはなれなかったけど。娘が

一番大事であるという、一番当たり前ことに気づけたところは良かったと

思いました。

窪さんは、やはり筆力のある作家さんだな、と改めて感じさせてくれる作品でした。