ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

梓崎優「狼少年ABC」(東京創元社)

長年待ちに待っていた梓崎優さんの新作。ミステリ・フロンティアから新作が

刊行されるとアナウンスがあってから早やウン年。他のミステリフロンティア

作品を読む度に、次こそ梓崎さんに違いない・・・!と期待しては裏切られる、

の連続で、もうミステリーランドの時の京極さんみたいに、出ないまま終わるの

では・・・と諦めかけておりました。書店で本書が出てるの見た時は心が震え

ましたよ、まじで。その足で帰りに図書館寄ってリクエストかけました。

いやー、やはり良かったですねぇ。ラストの作品は既読でしたけど、初めて読んだ

時と同じように騙されてしまいましたねぇ。

四作収録されていますが、どれも良かったです。個人的な好みでいうと、やっぱり

既読だったけど、ラストの『スプリング・ハズ・カム』が作品の完成度では一つ

抜きん出ている感じがして好きですね。切なさと驚きが同時に味わえる、なんとも

言えない読後感がね。梓崎さんらしい作品ですよね。一作目の童話のような

世界観も美しくて好きでしたけどね。海外が舞台ってのも梓崎さんらしさが

あるし。でも、友情が感じられる二作目と三作目もいいんだよなぁ。うーむ、

そう考えると、どれか一作選ぶの難しいかも^^;

 

では、各作品の感想を。

『美しい雪の物語』

医者である父が仕事でボストンの家を空けることになり、娘はハワイのコナ島に

住む叔父の家に預けられることになった。叔父は優しいが、娘はいつボストンに

帰れるのか不安な日々だった。そんな中、叔父の書斎で、娘は一冊のノートを

見つける。それは古い日記のようだった。書いたのは男性で、ある女性との

恋を綴ったもののようなのだが――。

日記の記述から、これがいつの時代のもので、二人はその後どうなったのかを

推察していくお話。

そもそも、このノートがボストンの叔父の家に置いてあるって時点で、誰が

書いたかの選択肢は大分狭められると思ったんですけどね。その辺りにあまり

触れられてなかったのはちょっと首を傾げてしまったのだけど。時代考証の下りは

さすがの巧さでしたね。少女の最悪の想像が覆されて良かったです。彼女が

見つけたことも、何かの導きによるものなのかもしれないですよね。ラストで

明らかになる彼女の名前をオチにする辺り、洒落たことをするなぁと感心しましたね。

タイトルともばっちり呼応してますもんね。

 

『重力と飛翔』

クラスメイトの小原が、今季初めての雪が降った日の朝、学校の校舎から落ちて

亡くなっているのが発見された。クラスの代表者だけが通夜に参加することに

なった。特別親しいというほどの付き合いではなかったものの、映画を通して

小原との思い出を持つ俺は、クラス代表として選ばれてはいないものの、斎場に

やってきた。そこで俺は小原の姉に会い、小原が生前に撮ったという写真を見せ

られた。そこには、降り積もった雪の上に続く足跡と開かれた状態の赤い傘が

写っていた。小原の姉から俺は、この写真の意味がわかるかと聞かれたのだが――。

亡くなった小原君の、映画に対する情熱に心を打たれました。もっと生きて、

映画を完成させてほしかったなぁ・・・。ラストの主人公の涙がすべてを物語って

いると思いました。切ないお話でしたね。

 

『狼少年ABC』

留学先から一時帰国している相羽は、カナダで狼観察のフィールドワークをする

という。そこにフォトグラファー志望の穂村が、野生の狼を撮りたいから同行

すると言い出し、柴田もそれに乗っかることになった。カナダの熱帯雨林

物見台で狼を待つ三人がとりとめのない話をしている中、柴田が突然自分の出自に

関する告白をしだして――。

柴田の、しゃべる狼の記憶の謎の真相が、少しづつ解明されて行く推理過程が

面白かったです。自分の出自に不安になる穂村に温かい言葉をかけてあげる

相羽と柴田はとてもいい友達ですね。いい関係だな、と思いました。

 

『スプリング・ハズ・カム』

卒業して一五年の節目に、同窓会が開かれることになった。その場では、十五年

前に埋めたタイムカプセルを掘り出すイベントも行われるらしい。掘り起こした

タイムカプセルをいくつか幹事が読み上げたところ、中の一通に十五年前の

卒業式の日に起きた放送室ジャックの犯人からの犯行告白があった――あの日、

一体何が起きていたのか。

これは先に述べたように、すっかり騙されていました。既読だったのに、

完全にその事実を忘れていたんですよねぇ・・・アホすぎる^^;最後まで

読んで、前に戻ってみると、絶妙な書き方してるんですよね。自然過ぎて、

まんまと騙されてしまった、と。とても切ないけれど、余韻の残るラストですね。

同窓会の後、電車のホームを挟んで会話する二人の姿が印象的でした。放送

ジャックの犯人が犯行を行った理由を知って、余計に切ない気持ちになりましたね。

 

 

次回作は、作者インタビューをちらっと読んだところ、もう少しインターバルが

短くなるみたいです。これを機に、もっといろんな作品書いて欲しいですね。

あのまま書き続けていたら、とっくに各種賞レースに名前が挙がってた筈の方

ですからね。短編もお上手だけれど、次は長編も読みたいな。