ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

七河迦南「刹那の夏」(東京創元社)

本当に久しぶりの七河さん。立て続けに二冊新刊が出たんですよね。しかも、

もう一作の方は七海学園シリーズの新作。昨年中に読めなくてちょっと残念でしたが。

そちらも楽しみ。

本書は5編の短編が収録されています。どれも七河さんらしい小技の効いた良作

ばかりでしたね。七河さんお得意の回文もちょこっと出て来てニヤリ。

なんでこんなに長い間お休みしてたのかはわからないですが、これを機にまた

定期的に新作出して欲しいなぁ。

 

では、各作品の感想を。

 

『刹那の夏』

春の災害で大きな被害を受けた旅館に、災害ボランティアとして二人の女性が

やってきた。作業をしてくれている二人に、旅館の娘である中一の菜穂子は、

亡くなった伯父の作ったボトルシップを見せた。しかし、ボトルの中に入っている

のは船ではなく、伯父が作ったミニチュアの本と文机だった。ミニチュアの本には、

めくれない部分に文字が書いてあると伯父は言っていた。その文字を解読する為、

三人は、伯父が少年時代に書いた手記を読み始めるのだが――。

伯父が少年時代に体験した、壮絶な一夜の体験の真相には目を見張りました。

津波が来る中、孤島の見張り屋に取り残された少年と少女。海水がどんどん

上がって来る中での二人のやり取りにドキドキしました。あの状況で助かった

というのは本当に奇跡にしか思えなかったですが・・・しかし、真相はもっと

どす黒いものが隠されていたのですね・・・生きる為とはいえ、これを踏み台に

したというのはね。災害といううのは、本当に人の運命を変えてしまうもの

なんだな、とやりきれなく思わされる作品でしたね。

 

『魔法のエプロン』

福祉課の谷口は、市民から児童虐待の通報を受け、若い保健師の小岩井と共に

当該児童の住むアパートへと向かった。ドアホンを鳴らすと、対応したのは

小学校の高学年くらいの女の子だった。同じ部屋に妹と弟がいるようだが、

親は不在だと言う。谷口は連絡先を書いた紙を少女に渡し、親に連絡してほしい旨

を告げるのだが――。

いやー、これは完全に騙されましたね。少女たちのママの態度にイライラムカムカ

してたんですけどねぇ・・・まさかの事実が隠されていました。真相を知って、

怒りしか覚えなかったです。そして、その状況に頑張って耐えて来た少女の

頑張りに胸が痛みました。子供は親を選べないってこういうことなんでしょうね

・・・。魔法少女の魔法が解けた瞬間があまりにもやりきれなくて。彼女の今後

が心配です。

 

『千夜行』

中三の夏休み、母親が付き合っている男の海外出張先に会いに行くと言い出し、

俺は叔母が住む母方の祖母の家に預けられることになった。祖母はすでに亡くなり、

祖母の家には叔母と従姉妹が二人で住んでいた。従姉妹の暖野は俺と同い年だった。

祖母と暖野は養子縁組をして親子になっていたらしい。祖母は俺の母親を含めて、

父親の違う娘を三人産んでいて、波乱万丈の人生を歩んだ人だったらしいのだが――。

これは、人間関係が複雑過ぎて何が何やらでしたね。中三の大事な時に、こんな

場所に息子を預けて男の元に走った母親は、多分一生後悔することになるでしょうね。

タイトルといい、これも東野さんの『白夜行』を彷彿とさせる話だなぁと思いました。

 

『わたしとわたしの妹』

保育士の冬美は、クラスの宮田麻里亜の日記を読んでいた。麻里亜の日記は、他の

生徒よりもしっかりしたまとまりのある文章で、生き生きと家の様子が伝わって

来た。しかし、その麻里亜の家には隠された秘密があった――。

あどけない麻里亜の日記に隠された恐るべきメッセージに心が冷えました。これも

歪んだ親による一種のネグレクトですよね・・・。やっぱり、子供は親を選べない。

 

『地の果て(ランズ・エンド)』

逃げるようにこの地にやって来て、地味だが平穏な日常を送っていたわたしの

前に現れた一人の男。彼ならわたしの願いを叶えてくれるかもしれない――。

短編映画のような作品でしたね。この後の二人の逃避行がどうなるのかもちょっと

読んでみたいです。桜庭(一樹)さんの『私の男』みたいな退廃的な空気を感じる

作品でした。