ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

安壇美緒「イオラと地上に散らばる光」(角川書店)

『ラブカは静かに弓を持つ』本屋大賞第二位を獲られた安壇さんの二作目。

前作がとても良かったので期待して手に取ったのだけれど・・・うーーーん。

なんで、作家として大事な二作目でこれ出しちゃったかな~って感じ。正直、

一作目の期待を大幅に裏切られてしまったなぁって言うのが素直な感想でしたね。

問題提起するタイプの作品なのは間違いないけれど、それにしても、主題の焦点が

ブレまくっていて、一体作者は結局何が書きたかったの?って首を傾げるばかりで

終わってしまった。タイトルに『イオラ』って名前を入れたのだったら、最後まで

このイオラの事件に焦点を当てれば良かったと思うんだけど・・・。耳に残る

この個人名詞をタイトルにしたかったのはわかるのだけどもね。肝心のイオラ

の事件から派生した事件の方に物語がズレていって、さらにそこからライター個人

の問題が出て来て・・・って、主題がどんどん違う方向に行っちゃうものだから、

読みどころがどこか全然わからなかった。最後まで盛り上がりもなく終了。

出て来る登場人物も視点がころころ変わって、一体誰が主役なのかもわからないし。

視点の人物はそれぞれにクズばっかり、でイライラさせられまくりだったし。

前作でいい人ばかりを描き過ぎて、今度は反対の人物ばかりを登場させたかった

のだろうか。それにしても、極端過ぎる。特に、一番メインの登場人物である

ライターの岩永のキャラは酷かったですね。自分より下の人間には横柄な態度で、

自分より地位が高い人間にはこれみよがしにへりくだって、完全に長いものに

巻かれるタイプ。メディアで長く続けるには、そうやっていかないと生きて

行けないのかもしれないけど・・・ただただ、人間性の醜さに嫌悪しか覚えな

かったです。

せめて、ラストでもう少しはっきり岩永に制裁が下るような展開まで描いてくれて

いたら、もう少しすっきりした読後感になったかもしれないですが、そこの

書き方も中途半端過ぎて。奥さんが何かした・・・かもしれない、みたいな

なんとも微妙な描き方なので、なんだかなーって感じのもやもやが残りました。

まぁ、せめて、手下として見下していたデニーズ君が最後に反旗を翻したところだけは

いい気味だと思えましたけど。何でも、下の人間は自分の思う通りに動いてくれる

だろうという奢りに足元掬われたって感じでいい気味だと思いました。

ネットリテラシーに関しては、いろいろと考えさせられるところはありましたけどね。

自分が書いた記事が大きな反響となり、それが第二の事件を引き起こしてしまった

ことに、岩永が快感を覚えているところにゾッとしました。そこは普通の感覚

を持っている人間だったら、恐怖を覚えるところだと思うんだけどね。謝罪の

気持ちも反省の気持ちも一切ないところが悍ましい。サイコパスってこういう

人間なんだろうな、と思わされた。家庭での態度もやっぱりな、と思ったしね。

外ではいい旦那を装ってるけど、裏では・・・って、典型的なタイプだな、と

思いました。イオラのような事件を、自分の奥さんだけは起こさないと思ってる

ところが痛いな、と。そういう意味では、最後に奥さんが事件を起こすって展開

だったらもっと違う感想だったかも。岩永みたいな奴には、天誅が下って欲しい

と思ってしまうからね。

結局、最初の方で岩永とデニーズが出会うシーンで、デニーズが財布を落とした

のって何だったんだろ。岩永がデニーズを陥れる為に何か細工したのかと

思ってたんだけど、結局何の伏線でもなかったみたいで拍子抜けだった。

あと、やっぱり、もっとしっかりイオラの事件を掘り下げてほしかったな。ワンオペ

育児をこじらせて夫の上司を刺傷させた彼女が、なぜそこまで追い詰められて

しまったのか。その背景とか人物像に焦点を当てる物語だったら、クズの岩永の

物語なんかよりも、もっと吸引力のある作品になったんじゃないのかな。

ラブカがとても良かったから、期待も大きかった分、ちょっと残念な作品だった。